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不二くんという男の子と出会ってから約一ヶ月後、は友人と一緒に、前回とは反対の方向の電車に乗った。
今度は絶対迷わない、と安心しきっていた矢先、買い物をしてお店から出てふと辺りを見回すと友人がいない。え?まさか、と思い、店内へ戻ってみたりまた出てみたりして、あちこち探してみたがやっぱり見当たらない。そうだ、携帯があるじゃない、と思い付き、電話をしてみるがなぜか通じない。携帯を見直すも、電波はちゃんと出ている。誰かと話し中なのかも、彼氏か誰かからたまたま掛かったのかな、と思い直し、はとりあえずその場で待ってみることにした。

しかし、それから10分待っても全く音沙汰がない。何度か電話も試みたけれど、やっぱり通じない。何かあったのかと不安になる。大丈夫だろうか。まさか、携帯落としたとか。どうしたんだろう、といろいろ考えていると、

「あれ?さん、だったっけ?」

と声がした。え?と思い、その声の主の方を見れば、何と、この前迷った時に案内してくれた、不二くん、だった。

「あ、不二くん。」
「あの、まさかとは思うけど、ひょっとしてまた迷ってる?」
「・・・・・はぁ。その、まさか、です。」

恥ずかしい......まさに、穴があったら入りたいとはこういう時に使うのか、と思いながらも、また同じ笑顔に救われたような気がして、訳もなくは少し心が和んだ。でも、今は、それよりも、友人の方が気になる。

「今日も一人なの?」
「いえ。今日はお友達と来たんだけど、そこの前のお店を出た途端にはぐれちゃって......」

そう。彼女なら、こういう時、絶対にすぐに見つけやすいように、大きくゼスチャーをしたりして、目立つように工夫してくれるし、何より必ず携帯に電話してくれるはずなのに。本当に何かあったんだろうか。

「そっか。それは心配だね。」
「そうなんです。わたしなんかより、ずっとしっかりしてるのに。何かあったんじゃないかと思って、ヘンなこと考えちゃって......」
「どれくらい待ってるの?」
「もうすぐ、15分くらいになるかな。」
「んー、ひょっとして、そのお友達も迷っちゃってるとか。」
「それはないと思うんですけど―――――」

と、言いかけたところへ、携帯へ着信があった。友人からだった。すぐにとって、「どうしたのー?」と言うと、

、ごめん。今さあ、さっきの本屋さんでちょっと電話借りてるんだけど、たぶんあたしの携帯、が持ってるんだと思うの。鞄の中、見てみてくれる?」

そう言われて、自分のバッグの中を見てみると、確かにマスコットのストラップの付いたの携帯が。

え?どうして???
確かさっき鳴らしたのに...気が動転してて気が付かなかったのだろうか。


の、あった」
「あぁ、良かった―。と携帯と、両方探しててさあ、この本屋さんまで戻って来て、ないのを確認してからふと思い出したの。ちょうどこの辺で、あたしのピクチャー見てたでしょ?あの後、レジとかでバタバタしてたから、携帯、に渡したままだったのよね。あたしも悪かったんだけど。それでさぁ、この本屋さんまで来れる?道順、今から言うから...」

そんなの説明を、うんうん、と頷きながら聞いてて、「あぁ、さっきの。うん、本屋さんだね。」とわたしが言ったところで、横からサッと長くて綺麗な指が来て、わたしの携帯をさらって行った。

「あ、突然すみません。僕、不二って言いますけど、今偶々さんにあって、実はこの前も、...はい、...えぇ、はい、そうです。じゃあ、話しが早いや。今から僕がさんを案内しますから、その本屋さんまでの道順、教えてもらえますか?......はい、...はい、あぁ、あの角の花屋さんの隣のですね。分かりました。はい。大丈夫です。僕が責任を持ってさんをそちらまでお連れしますから。」

ということで、結局また不二くんのお世話になることになってしまったのだ。もう、わたしは、本当に申し訳なくって、ほとんど他人同然のわたしに、ここまで親切にしてくれるなんて、もうどうやってお礼をしようかと、そればかりを考えながら、の待つ本屋さんへと向かっていた。

―」
―」

とわたしたちは無事再会を果たし、すぐに携帯をに返して、良かった良かった、とお互いに安堵し合っていたら、「じゃ、僕はここで。」と不二くんが去ろうとしたので、は慌てて引き留めた。

「あの、不二くん、お礼がしたいのだけど、もし時間があるなら、一緒にお茶でもどう?」

「ありがとう。気持ちだけ受け取っとくよ。せっかく会えたんだし、二人でゆっくりして。僕も今から姉さんと待ち合わせなんだ。」

じゃあ、と片手をあげて、不二くんは行ってしまった。あぁ、不二くんも用があったのに巻き込んでしまって...本当に申し訳ない。わたしはがっかりして溜め息をついた。

「ねぇ、確か不二くんって、青学って言ってたよね。お礼しに学校まで直接行ってみたら?」
「えぇ―?!学校まで押し掛けちゃ、それこそ迷惑なんじゃ...」
「だってほとんど面識ないのに、ここまでしてくれる人だよ?絶対、人の好意を無にする人じゃないって。ね。付いてってあげるから、一緒に行こ?」

ということで、明後日、不二くんの通う青春学園に行くことになってしまった。












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2012/02/10 by ゆかり