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はぁ...参った。
また、迷っちゃったー。
困ったなぁ。どうしよー...


は、道を見失っていた。極度の方向音痴に加えて、今日は、よりによって電車の目的の駅を一つ乗り過ごしてしまった。また戻るのも面倒で、改札を出て、そのままあまり歩いたことのないこの街を散策することに。友人への誕生日プレゼントを買うべく、あちこち吟味しながら彷徨っていた。

目的の物はGetしたものの、いざ駅まで戻ろうとして辺りを見回すと、全く記憶のない道。それから、あっちじゃない、こっちじゃないとウロウロしているうちにすっかり疲れ果ててしまい、途方に暮れていた。

ふと顔をあげると、目の前にはかわいい、そしてちょっと懐かしい感じの駄菓子屋さん。その前に小さなベンチがあったので、そこへ腰掛けた。

時計は17時を回っていた。まだそんなに遅い時間ではないけれど、帰る時間を考えると、そろそろ電車に乗らないと遅くなりそうだ。とりあえず、この状況、そして、ひょっとしたら(わたしのことだから)遅くなってしまうかもしれない旨を伝えるべく、自宅の母親に連絡した。


さて...困った。
どうやってこの状況を切り抜けよう。いつもなら、友人が手を引いて連れて行ってくれるところだが、今日はそうはいかない。そもそも、馴染みの駅を乗り過ごしたのがまずかった。けど、今さらもう遅いし。んー、とうねりながら、目をつぶって下を向いた。

よし。次に、目を開けて顔を上げた時に目の前にいた人に声をかけてみよう。その人に、とりあえず、駅までの道を聞く!よしっ。そうしよう!


とは思ったものの、夕暮れ時の気忙しい時間。目を瞑っていても、行き交う人々の足音も、どことなく足早な音に聞こえてくる。んー、こんなんで本当に見つかるんだろうか...いや、絶対にいい人に巡り合える!今日のおは朝占い絶好調だったし。あ、でも、この状況じゃ、良いとも言えないか。

はぁ、ともう一つ溜め息をこぼしたところで、うしっ、と気合いを入れた。神様、お願いっ!駅までの道だけでいいんです。教えて下さい!!!!!


3、、、2、、、1、、、


ぱっ!


目の前に人が立っていた。
それも、こちらに背を向けて。
小脇に本を抱えて、向かいのお店の方を見て、じっと立っていた。
わたしは、思わず、これってチャンスかも、と思い、その人に向かって声をかけた。


「あの...すみません!」

すると、その人は、一瞬はっ、となった様子で、左右を確かめて、後ろのわたしの方へ振り向いた。


ぅわ。綺麗な顔...

一瞬、女性なのか男性なのか、分からなかったけど、それが、の彼に対する第一印象だった。


「あ、突然、ごめんなさい。」
「いえ、こちらこそ、ちょっと考え事しててすみませんでした。」
「あー、いえ、そんな...こちらこそ急にすみません。」
「いえいえ。あの、何か?」
「えっと、この辺りのことに詳しい方ですか?」
「んー、えぇ、まぁ。何度か本を探しに寄ったりしていますけど。」


ニコニコと、笑顔で応対してくれる、この感じのいい男性に、あぁ、この人なら教えてくれるかも、と、ちょっとだけ嬉しくなって、早速聞いてみた。


「あの、実は、わたし、この辺り、初めてで、道に迷ってしまって、駅までどう行ったら良いのか困ってるんです。」

すると、

「あぁ、そうなんですか。もしよろしかったら案内しますよ。僕も今から駅に向かおうと思ってたので。どうでしょうか。」
「え?いいんですか?あの、そちらに用があるんじゃ...」

そう言いながら、はその男性が向いていたお店の方を指差した。

「あぁ、それなら大丈夫です。僕もそろそろ帰らないといけないと思ってましたし。一緒に行きましょう。案内しますよ。」


は、心の中で、神様に感謝した。


「じゃあ、お言葉に甘えて。すみません。よろしくお願いします。」

そう言って、頭を下げた。


彼は、フフフと笑って、じゃ行きましょうか、と歩きだしたので、も急いでついていった。


そして少し歩いてから、彼が話しかけてきた。

「あの、失礼ですが、学生さんですよね。」
「はい。中学三年生です。」
「え?中学三年?じゃあ、僕と一緒だ。」
「え?そうなんですか?年上かと思った。」
「いや、僕も、君の方が上かと。」

と二人で話しながら、顔を見合わせてお互いに噴き出してしまった。



その人は、不二 周助くん、という名前で、青春学園の三年生だと言った。わたしは都立の中学校だったけど距離的には結構近くて、降りる駅も同じだったので、結局帰りのバス停まで送ってもらってしまった。最後に「気を付けてね」とだけ言われて別れた。



まさか、同じ人に、二度、助けてもらうことになるとは、その時はもちろん予想だにしなかった。








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2012/01/07