先輩...



わたしじゃ、駄目でしょうか...









*** わたしに...〜act like a baby?〜









今日は、市立の図書館に来ている。
待ち合わせ場所は、7割はここ。初めて出会った場所だから、自然とここへ足が向く。


本の趣味が似ていて、たまたま借りようとしていた本が一緒で、お互いに譲り合ったりしてその時は結局わたしが借りることになったのだけれど。そんな感じで、書架を選ぶ位置が一緒だから、顔を合わせる機会も多くて、借りるタイミングなんかもよく重なったりしたから、何となく言葉を交わしているうちに打ち解けていったのだけれど。不二先輩とお付き合いするようになって一年とちょっと。最近ちょっと気にしていることがある。


先輩は優しい。待ち合わせにちょっと遅れたりしても全く不機嫌な様子もないし、逆に「ちゃんを待ってる時の方が、待ち遠しくって楽しいよ」なんてニコニコされると、かえって申し訳なかったり。わたしってどちらかというと鈍チンだから、話の流れで勘違いしちゃうこともよくあるのだけど、全然気にしてる様子もないし。とにかく、ムッとする、とか、怒る、とか、そういうことは全くない、というか、先輩って、機嫌が悪くなることってあるのだろうか。少なくとも、わたしに対しては、皆無に等しい。と思うのは、ちょっと自惚れ過ぎかな...


「やぁ。ゴメン。待った?」

不二先輩は、水色のパーカーに、ベージュのカーゴパンツ。不二先輩がパーカー。な、なんか、かわいいー!得した気分!


「どうしたの?僕の顔に、何かついてる?」


パーカーが思った以上に似合ってて、思わず見惚れていたのか、先輩の言葉にハッとなって、「あ、うううん、な、何でもないです...」とわたしはちょっぴり慌ててしまった。


「フフフ。何?どうしたの?ちゃん、顔赤いよ?」


なんて言われて、わたしは自分の頬を両手で覆った。確かに熱い。何を考えてるかビミョ―にバレちゃってる風で、様子を窺うように先輩の方を見たら、まぁ場所が場所なだけにそうなのか、右手をグーにして口に当て、声を出さずにクスクス笑っている。いつもそうだけど、何だか何もかもお見通しって感じだなぁ...


ちゃん、何考えてたの?ひょっとして僕に見惚れてた?」
「せ、先輩...」
「フフッ。ホント、ちゃんは、可愛いなぁ。」


と、いつもこんな調子でからかわれて会話は終わってしまう。いいのか悪いのか。ま、先輩、楽しそうだからいっか、とわたしもついつい流されてしまう。でもこんな和んだ雰囲気が好き。不二先輩と一緒に居られるだけでも、とっても幸せだなぁ、って思う。


今はテスト週間中なので、いつもより長く一緒に居られる。とは言っても、勉強しなきゃなので、ゆっくりまったり、とはいかないのだけれど、でも、少しでも先輩と同じ空気を感じられるこの時間が、とても貴重で、嬉しく思う。

同じ青学だけれども、2年と3年とでは校舎も違うし階も違うから、ほとんど会うことがない。全校集会の時とか、お昼休みに購買に行ったときとか、それでもたまに見かけたりすれ違ったりはあっても、それは本当に稀。先輩はテニス部でとても忙しいから、放課後もそんなに毎日一緒に帰れる訳じゃない。だから、今日みたいな時間は本当に貴重。たまに分からないところとかを教えてもらったりするけれど、先輩の勉強の邪魔はしたくないし、それより、同じ机で一緒に勉強できるのが嬉しいから、もうそれだけでドキドキしちゃう。先輩はどうなのかな。同じように思っててくれてると嬉しいけれど。


そうこうするうちに閉館の時間が近づいてきたので、わたしたちも出よう、ということになり、本を片付けて先輩と一緒に図書館を出た。


「今日は結構捗ったね。どう?ちゃん、進んだ?」
「はい。先輩のお陰で、数学も理解できるようになったし、今回はイイとこいけるかもです。」
「フフフ。そう、良かった。そうだ。ちょっと休憩していかない?あまり時間は取らせないから。」
「はい。ご一緒します。」


じゃ、行こうか、と言われてついて行ったところは、いつものファストフード店。とりあえず今日は二人で飲み物だけ頼んで、いつもの角の席に座って一服する。


「今日は確かにちゃん、頑張ってたよね。主要教科全部復習してたでしょ。」
「はい。先輩と一緒だしと思って、張り切っちゃいました。」
「フフフ。ちゃんは、頑張り屋さんだな。ねぇ、明後日の日曜だけど、うちに来ないかな。一緒に勉強しない?」
「え?いいんですか?先輩のお邪魔になりませんか?」
「クスッ。大丈夫だよ。僕が少しでも君と一緒に居たいって思ってるだけだから。」
「せ、先輩...」
「日頃、部活とかでなかなかゆっくり会えないからね。まぁ、そうは言っても、テスト期間中だから、のんびりは出来ないけど。一緒に同じ時間を過ごせるイイ機会かな、って思ってね。」
「あ、わたしも同じこと思ってました。」
「良かった。じゃあ、日曜日、おいで。待ってるから。」
「はい。」


わーい、また先輩と一緒に居られる、嬉しいな、と、わたしはそう思いながらも、こんなにいつも甘えっぱなしでいいのかなぁ、と思うわたしもいた。一緒に居たい、って思ってくれてるのだから、きっと同じように嬉しいって思ってくれてるのだろうけど、先輩、わたしに気を遣ったりとかしてないかなぁ。見た感じ、全然そんな風には見えないけど、先輩、いつも優しいから、気疲れしちゃったりとかしないのかしら、などと考えながら飲んでいたら、どうもまた、わたしは先輩を凝視してしまっていたようで、目の前の先輩がまたクスクス笑い出した。

「そんなに見つめられると困っちゃうんだけどな。帰したくなくなっちゃうじゃない?」
「へ?あ、す、すみません。」
「フフフ。いいんだよ。ちゃんに見つめられるのはこの上なく嬉しいし。僕も君に負けず劣らず、君だけを見てるけどね。」
「せ、先輩ったら...」
「フフッ。じゃ、そろそろ行こうか。」


そうして、いつものようにわたしは不二先輩に自宅まで送ってもらう。先輩は、わたしが家の中に入るまで見ていてくれて、それを見届けてから自宅へと向かう。とっても大切にされてるんだなぁ、と感じるのだけれども、いつもしてもらうのはわたしの方で、わたしも何か先輩にしてあげたい、と最近思うようになった。何をしてあげたら先輩、喜んでくれるだろうか。そんなことを考え始めて早二ヶ月。未だその答えを見い出せずにいた。










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2012/04/13



by ゆかり