*** わたしに...〜act like a baby?〜 2









そして、日曜日。
わたしは、約束の時間に不二先輩の家へ向かった。
不二先輩の家は、何度も寄らせてもらって、お母様やお姉さんの由美子さんの手作りのケーキも何度も頂いたのだけれど、恥ずかしながら今日は朝から張り切って、カスタードプリンを作ってお土産に持ってきた。喜んでもらえるといいな。お母様やお姉さんもだけど、もちろん不二先輩にも。


インターホンを鳴らすと、「ちゃん?どうぞ」という優しい不二先輩の声がして、程なくしてドアが開けられ、わたしは先輩に中へと促された。玄関へ入ると、奥から先輩と笑顔がよく似てらっしゃるお母様も出て来られて、「ちゃん、いらっしゃい。どうぞ、上がって。」と言われたので、「あの、これ。お口に合うか分かりませんけど、作ってきたので皆さんで召し上がってください」と言いながら、プリンの入った箱を差し出した。すると、「ちゃんの手作り?すごいなぁ。楽しみだな。ね、母さん」と不二先輩が言って、「まぁまぁ、気を遣わせちゃったわねぇ。後で皆で頂きましょうか。ありがとね、ちゃん」と先輩のお母様にも言われ、「少しですけど、どうぞ。あの、わたしは構いませんので。」とわたしが照れながら言ったので、先輩はクスッと笑って、「じゃ、僕たちは部屋で勉強するから、母さん、後で適当に声掛けてよ」と言いながら、わたしに一緒に上がるように手を出されたので、わたしは先輩について階段を上がった。するとお母様が、「分かったわ。じゃ、二人とも頑張ってね」と言われたので、わたしは笑顔で会釈した。


先輩の部屋は、いつも片付いていて綺麗だ。わたしも、先輩のお家に来るようになって、自分の部屋もきちんとするように気を付けている。いつ先輩が来ても良いように。そう。まだわたしの家には不二先輩が来たことはないのだけど、急に来ることになっても大丈夫なように気を付けてるのだ。これも先輩のお陰かなと思う。整理整頓できるようになったのも、苦手だった英語が好きになったのも、挙げるとキリがないくらい先輩に良い意味で影響を受けたものはたくさんある。だから、今度は何か、わたしがお返しをしたいのだけれど。あれこれ昨日も考えていたのだけれど、やっぱり思い付かなかった。


一時間半くらい一緒に勉強をした頃、階下のお母様が呼びに来られて、一緒にお茶を頂いた。出掛けられた由美子さんが作ってくださっていたケーキも、一緒に頂きながら、三人で笑いあって雑談をし、また再び先輩の部屋で一緒に勉強をした。


ある程度目処がついて、ふと不二先輩の方へと目をやると、先輩は、社会の歴史の資料集とにらめっこしながら、ノートに綺麗にまとめているところだった。先輩って、決して無理をしてるようには見えないけど、甘えたりしたことってあまりないんじゃないかなぁ、と思った。上手く甘えられない、とか?わたしには甘えられないかなぁ。っていうか、思いっきり役不足とか?え?何か、心配になってきちゃった。どうなんだろ...

などと、いろいろ思いを巡らしていると、先輩と目が合った。


ちゃん、どうしたの?何か考え事?手塚みたいな表情になってるけど?」
「え?て、手塚先輩ですか?わ、わたし、そんな難しい顔してました?」
「フフフ。面白いこと言うねぇ。ん。ちょっと休憩しようか。」


不二先輩は、そう言いながら、うーん、と伸びをして、で、どうしたの?何かあった?、とわたしに聞いてきたので、わたしは意を決して先輩に言ってみた。


「不二先輩。」
「ん?何?」
「わたしに甘えて下さい。」


すると、先輩の目がものすごく驚いたように見開かれて、一瞬、どう反応して良いか分からないように見えたけれど、すぐにいつもの先輩に戻って、


「え?ちゃん、どうしたの?」
「あ、えっと、何て言うか、先輩、いつもきちんとされてるから、無理してないかと思って。わたしじゃ、気の許す相手になれてないんじゃないかと思って。良かったら、わたしに甘えて下さい。」
「えーと、それは、君に対して、ってことかな?僕は全然無理とかしてないよ。逆に、今日だってそうだけど、いつも我儘言わせてもらってるのは、僕の方じゃないかな。」
「いえ、そんなことないです。先輩、いつも優しいから、甘えてるのはわたしの方です。先輩の怒るとことか全然見たことないし、わたしの方がいつも許してもらってて、申し訳ないなーって...先輩、甘えて下さい。それとも、わたしじゃ駄目ですか?」


不二先輩は、困ったなぁという表情をして、ちょっとだけ目を逸らしたけれど、その後、今度はまっすぐ、真剣に、まるで心からわたしを愛でるような眼差しを向けて、


「じゃあ、お言葉に甘えて、君に甘えさせてもらおうかな...」


そう言いながら、先輩は、わたしの両手をしっかり包んで握ってきた。
決して目を逸らさせないような視線。そして、先輩の片方の手がわたしへと伸びてきて、わたしの頬を撫でた。
心臓の音が耳につく。思わず喉がゴクンと鳴った。わ、わたしは何をすればいい?ていうか、何、されるんだろう...


すると、不二先輩は、クスクス笑い出して、

ちゃん、今、ちょっと怖くなったでしょ。」
「え?いや、あの...」
「まさかとは思うけど、スゴイこと考えたんじゃない?」

そう言われて、わたしは、首をブンブン、横に振った。

「フフフ。大丈夫。僕は、君のこと、とっても大事にしたいから、こんなことで襲ったりしないよ?」
「お、おそうって...」
「フフッ。真っ赤になっちゃって。可愛いなぁ。」


不二先輩はそう言って、わたしのそばに寄って来て、わたしをギュッと包んだ。こうされるのは初めてじゃないのに、わたしは思わずドキッとして、一瞬びっくりしたけれど、でもじきに落ち着いてきて、先輩にもたれた。先輩の胸はあったかい。とても居心地が良くてホッとする。すると、先輩が口を開いた。


「僕は十分甘えさせてもらってるよ。君が居てくれるだけで癒されるし、こうやって君の体温を感じられることでどれだけ安らげるか。僕はこうして、必死で君に気持ちを伝えてるんだけどな。何だか逆に不安にさせてしまったみたいだね。もっとずっと一緒に居られるといいのにな。」
「不二先輩...」


すると、そうだ、と先輩は言って、わたしを開放し、再びわたしの両手を包みながら言った。

「これで君の気が済むかどうか分からないけど、今度は君が僕をギュってしてよ。」
「え?」
「いつもハグするの僕からだから、たまには君からされたいな。どうかな。」


わたしが、先輩を抱きしめる...?つまり、えっと、ど、どうすれば...
わたしが戸惑っていると、先輩は、「はい、どうぞ」といって、わたしから手を外し、目の前に目を瞑って座った。そうか。先輩のために、先輩の喜ぶこと!...先輩を見ていると、とても愛しくなって飛びつきたい気持ちになった。わたしは、膝をつく姿勢になり、上から先輩を見下ろした。先輩を見下ろすってとても新鮮だ。って、これって、いつも先輩がわたしを見る時の位置になるのかな。そう思うととても嬉しくなって、わたしは、先輩に近づいて、そのままギューッと先輩を抱きしめた。








fin

by ゆかり 2012/04/13











《つぶやきという名のあとがき》

えっと。。。
甘えた不二くんを書くつもりが、あまりなってませんでした。。。( ̄▽ ̄;
というより、初めての、先輩不二くんを書いてみました。
わたしの書く不二くんは、大抵同い年ですし、
自分の中でも、位置的には対等のつもりなので、
年下ヒロインを書いたことがなかったのですが、
年下に甘える不二くん、いいかも、と思ったのがきっかけで、
こんな感じに仕上げてみましたけど、いかがでしたでしょうか。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。
陳謝。