「リコちゃーん、お願いっ、ついてきてーっ!」


わたしは、一人では、どうしても心細くて、


リコちゃんに声を掛けた。








*** sincerely








入学してある日の全校朝礼。

衝撃的な出来事が起こった。

屋上で叫び続ける男子学生。わたしはその彼から目が離せなかった。


全国大会に出る、だの、全裸で告るだの、スゴイことを言っていたけれど、でもその一生懸命な気持ちが十分伝わってくる言葉。特にその最後に叫んでた男の子のことが、一番気になっていた。


確か名前は日向くん、って言ってた。1ーCだっけ。わたしは、1ーCの教室の前を通る度に、日向くんがいないかチラッと覗いてみたり、廊下に出るたびにすれ違わないかとか、いつも気にしていた。こういう時、違うクラスってやっかいだな。でもそれはしようがないこと。とりあえず、たまにでも見ていられるだけで十分。そう思ってたころ、いつの間にか、わたしは、同じクラスの相田リコちゃんとよく話をするようになっていた。


リコちゃんは、性格も話しぶりもとってもはっきりしていて、気持ちのイイくらい姉御肌なタイプでカッコいい。おまけに頭もイイし、すっごく憧れる存在だ。逆にわたしは、どちらかというといつもドジばかりで、優柔不断だし、ドンくさい方。でも、なぜかリコちゃんとは話が合って、よく一緒に行動していた。


ある日、わたしとリコちゃんが、一緒に昼ご飯を食べていたら、突然、日向くんが教室に入ってきた。


「ねぇカントク、ちょっと練習メニューで、相談があんだけど。」
「なぁに?もうちょっと増やしてほしいの?」
「っ、ちげぇよ。ちょっとフットワーク鍛えんのに、やってみたいことがあんだけどさ。」

目の前で繰り広げられる会話について行けず、わたしはただ、ぼんやりと二人の会話を聞きながら、お弁当に箸をつけていた。


んじゃ、よろしくー、と言って、日向くんは教室から出ていった。わたしは何のことかさっぱり分からず、思わずリコちゃんに聞いてみた。


「今の、何の話し?」
「え?あぁ、部活。バスケの話よ。」
「へ?バスケ?リコちゃんと、今の人?」
「えぇ、うん、そう。って、言ってなかったっけ?わたし、男バスの監督やってんの。」
「え゛ー?ぅわぁ、そ、そうなんだぁ。すごいね、リコちゃん。じゃあ、今の人もバスケ部?」
「そうよ。一応、キャプテン。」
「へぇ、そうなんだぁ。」


リコちゃんは、当り前のように普通に話してたけど、わたしにとっては、超有力情報だった。そっかぁ。日向くん、バスケ部だったんだ。


「ね、ねぇ、リコちゃん、バスケの練習、見に行ってもいいかなぁ。」
「へ?ま、いいけど。でも、練習なんか見ても、全然面白くないわよ?暑苦しいだけだし。」
「あ、それは、いいのいいの。ただ見てみたいだけだから。邪魔しないし。」


すると、リコちゃんは、肩肘ついて顎を乗せ、見下ろすようにわたしを見ながら、

「ふうん。何か、見てみたいことでもあるんだー?」

と、薄っすら笑みを浮かべながら言ってくるから、あ、まあね、き、気にしないで?、とだけ言っておいた。



それから時々、バスケ部の練習を見に行っていた。まず、出来るだけ気付かれないように。だって、恥ずかしいし。にしても、やっぱりプレーしてる時の日向くんはカッコいいなぁ、と思いながら、帰宅部のわたしはいつも少しだけ覗いては満足して帰っていた。

あれから、リコちゃんに、練習試合とかがある時は、上手く聞きだして見に行くようにしていた。すると、今度はリコちゃんから教えてくれるようになった。これもわたしにとっては好都合。リコちゃんはそんなわたしの気持ちに気付いてるのかどうか分からなかったけど、よくわたしと一緒にいるときに日向くんに話しかけたりしていた。んーでも、実はちょっぴり複雑だった。どうもリコちゃんと日向くんは同中だったっていうし、家も近くらしいし、ひょっとしたらリコちゃんも、と考えたりすることもあったりした。


もし、リコちゃんもわたしと同じ気持ちだったら、わたしには勝ち目ないなー、と思っていた。だって、リコちゃんと日向くんって、よく見ると、何だかんだ言いながら、結構気が合ってるように見える。志が同じというか。目指してるところが一緒って、やっぱり強いよなぁ、と思ったりした。それにあのリコちゃんだもの。わたしじゃ適わない。そう思う時もあった。


ある時、いつものようにお昼にリコちゃんと一緒に食べていたら、やはりいつものように日向くんがやってきて、あれこれバスケのことを話していた。始めこそ、日向くんに近付けて嬉しいなって思ってたけど、残念ながらバスケはさっぱりなので、実際話について行けなくて、あまり聞いてないことの方が多かった。ちょっと置いていかれたような気持ちになってたので、この頃は少し複雑な感じがしていた。ところが、

「あ、ゴメン、。ちょっと席外すね。」

リコちゃんはそう言って、どこかへ行ってしまった。となると、ここにはわたしと日向くんの二人だけ。そ、そんな、急に二人っきりになったって、何話していいか...お弁当も食べ終わっちゃったし、どうしよう、と思ってたら、

「ゴメンな。アイツ、ちょっと購買に行ってくるって。」

日向くんはそう言って、そのまま隣の席に座っていた。

じゃあ、日向くんってどうなんだろう、リコちゃんのこと、どう思ってるのかなぁ、と思いながら、お弁当を片付けてたら、日向くんが話しかけてきた。

「あ、えっと、さん、この前は、はちみつレモン、ありがとな。美味かったよ。」

先週、練習試合を見に行った時、その前に、リコちゃんがレモンを丸ごと付けたはちみつレモンを持っていったって聞いてたから、わたしがちゃんとスライスして漬けたはちみつレモンをリコちゃんにことづけたことがあった。日向くんが言ったのはそのことか、って思ったので、

「ホント?良かった。上手く出来てたか、ちょっと心配だったから。」
「いやー、カントクが作ったのに比べたら、そりゃ雲泥の差だからさ。」

って日向くんが言って、二人でおかしくてクスクス笑っていた。そこへ、リコちゃんが戻ってきた。

「ほら、これよこれ。やっぱりあったわよ?」
「あ、悪ぃ。よく見えんかったわー。」

もう、そのメガネ、買い換えた方がいいんじゃない?、とかリコちゃんが言って、何かを日向くんに渡していた。わたしは、いいなぁ、と思いながら二人を見ていた。

日向くんが行ってしまってから、リコちゃんが話しかけてきた。

「どう?アイツと何か話せた?」
「え?まぁ、少し......って、何?リコちゃん、ひょっとして...」
「フフン、分かるわよっ。見てたらバレバレだし。」

リコちゃんは片目をつむりながらそう言ってくるので、ぅわっ、わたしって、そんなに分かりやすかったのかな、と思いながら、自分の行動を思い出していた。

「ねぇ、告んないの?」
「や、やだなぁ。絶対ムリだって。」
「そう?言ってみなきゃ、分かんないわよ?」
「んー......ねぇ、リコちゃんは、日向くんのこと......どうなの?」
「へ?あたし?あはは、ジョーダン。部の連中には興味ないから。」
「え?そうなの?」
「だって。ンなこといちいち考えてたら、やってらんないじゃない?ていうか、それよりも”育てる”方が、ずっといいし。」
「ふうん。やっぱ、リコちゃんって、ちょっと変わってるんだね。」
「そう?ま、いいじゃない、わたしのことは置いといて。、どうすんのよ?」
「んー、そうねぇ、もうちょっと考えてみる。」


実際、全く自信がないわけでもなかったけど、このままでもいいな、と思う自分もいた。でも、リコちゃんが応援してくれてると思うと、やっぱり凄く心強いし、何より素直に嬉しいと思った。


それから、リコちゃんは、何度か日向くんとわたしが二人で話せるように、いろいろ機会を設けてくれた。何だかミョーにくすぐったいような感じがしたけど、日向くんと話せるのは嬉しかったし、それとリコちゃんの気持ちもとっても嬉しかった。


リコちゃんのおかげで、わたしも少しずつだけど、バスケのルールとか言葉とか分かるようになっていった。たまにだけど、三人で話すことも出来るようになっていた。


そんなある日、リコちゃんに言われた。


「ねぇ、、そろそろ告っちゃいなよ。」
「んー、どうしようかなぁ。」
「わたしは、結構イイ感じだと思うけどな。思い切って言っちゃいな。」
「でも......あ゛ー、やっぱり自信ないよー。」
「じゃ、あたしがセッティングしてあげるからさ。」
「え?ホント?」
「うん。いつものように、上手く話せるように、誘い出してあげる。」
「んー、上手く行くかなぁ......」
「大丈夫って。あたしが付いてる。」
「じゃぁ、リコちゃん、お願い。直前までついてきてくれる?」
「オッケー。じゃ、アイツに言ってくるよ?」



その日の放課後、わたしと日向くんとリコちゃんの三人で、屋上へ行った。


リコちゃんは途中で、ごめーん、用事思い出した、と言って降りて行った。その時、わたしにだけ聞こえるくらいの小さい声で、

「自信もって行っといで。頑張れっ。」

そう言って、わたしの右手をギュッと握ってくれた。






fin

by ゆかり 2012/05/12







《つぶやきという名のあとがき》

これ、どうでしょ?どう見ても、日向夢???>爆
んー、友情話って、結構ムズイかも。。。(汗々)
リコちゃん好きです。あの性格、いいですねー。ちょっと憧れちゃいます^^
ということで、わたし的には、結構楽しく書かせていただいたので、
これはこれで、自己満足です^^;;; はは。。。すみません。。。

ちなみに、このお話は、日向くん夢の「ぬくもりに触れて」とリンクしてます。同じヒロインです。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。
陳謝。