「ちょっとトイレに行ってきます。」
「おぅ。早くしろよー」
今日の分の試合を終え、僕は、
自分のバッグを会場のホールのベンチへ置き、
トイレへと急いだ。
そして、戻ってみると、バッグの上に
手作りらしいクッキーの包みが置いてあった。
*** cookies
何となく、彼女だといいな、と思う心当たりがないわけではなかった。クラスメイトのさん。どちらかというとあまり目立たないタイプの女の子で、どことなく自分と似ているように感じていたのだけれど。んー、それは彼女に失礼だろうか。でも僕は、気が付けば彼女を目で追っていた。いつも友達の少し後ろで微笑んでいて、奥ゆかしくて控えめな感じの女の子だった。
その彼女を、実は試合の時、たまに応援席に見かけることがあった。大きな大会の時だけではない、どこで聞いたのか練習試合の時とかも。その時は大抵一人だった。決して目立たないのだけど、なぜか客席ではなくいつも後ろで立って見ていた。僕にとってはその様子がとても印象的で、いつも試合の度に、どこかにその姿がないかと試合の最中でもあちこちと目で探していた。
もちろん、他の生徒たちもたくさん応援に来ていた。だから、その送り主が必ずしも彼女だという確信はなかった。けれど、そのクッキーの包みの丁寧で且つあまり派手すぎない包装の仕方、中身の上品な味、そして、手紙も何もないその何でもない気持ちの表し方が、彼女だと言っているような気がして、僕はどうしても確かめたいと思うようになっていた。
地区大会第三試合目の日。今日こそはその送り主を確かめようと、その日は珍しくいささか緊張していた。試合でも違う意味での高揚感はあるものの、緊張することはなかったのに、その送り主がついに分かるかと思うとミョーにドキドキしていた。でもひょっとしたらさんじゃないかもしれないし、タイミング悪く、今日は何も持って現れないかもしれない。でも、今日はきっと試合にも勝つし、そして彼女も現れる。これは自分自身への一つの賭けだった。
試合も無事勝利で終わり、道具等も片付けて帰る時間となった。いつも大体このタイミングでクッキーは置かれる。だからもし今日もそうだったら、きっと...そう思って、彼女が上手く持ってこれるように、僕はいつものようにホールのベンチにバッグを置いて、トイレへと向かおうとしていた。
「日向先輩、ちょっとトイレに行ってきます。」
「おぅ。向こうで待ってるぞ。」
そして、僕はバッグから離れて、トイレの方へと向かい、一応入ったふりをして、そのそばの大きな柱の影に隠れた。そして、誰か現れるか、様子を伺っていた。
すると、すぐのタイミングで誰かが現れた。なるほど。こんなに早く現れたら、誰も気づかないし、もちろん僕にも分かるはずもない。そして、彼女はタタッと走って現れ、僕のバッグに近づいて何かを置き、すぐに振り返って立ち去ろうとしたので、僕はすかさず近づいて声を掛けた。
「さん。」
「あ......」
彼女はますます逃げようとするので、僕も走って追いかけ、そして彼女の腕を掴んだ。
「待ってください。」
「ご、ごめんなさい。」
「どうして謝るんですか。お礼を言おうと思って待ってたんですけど。」
「え......」
「さん、いつもこっそり置いてくれてたでしょう?」
「・・・・・・・・・・」
「君が、僕たちのほとんどの試合に応援に来てくれてることは気づいてました。確信はなかったんですけど、このクッキー、君からだといいなと思ってました。」
「・・・・・・・・・・」
すると、黙ったままだったけれど、さんは僕の方を向いて、その大きな瞳で僕を一生懸命見つめ返した。
「お礼を言わせてください。僕はいつもこのクッキーに励まされていた。」
「く、黒子くん......」
「それに......」
「・・・・・・・・・・」
「あ、いや、、、今度、近いうちに、一緒にどこか出かけませんか?もっと君といろいろ話してみたいです。」
「え...黒子くんと?」
「はい。二人で。」
彼女の瞳が一瞬大きくなって、そのまま顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。僕は思わず抱きしめたい衝動に駆られたけれど、それは大人しい彼女を驚かすだけだし、また逃げられても困るので、僕は彼女の両手を僕の両手でゆっくり包んだ。
fin
by ゆかり 2012/07/19
《つぶやきという名のあとがき》
「14000」を踏んでくださった、”森島まりん様(森の遊歩道)”からのキリリクです。
大好きなまりんさまが、”14000”だったよー、とコメくださって、
すっごく嬉しくて、お礼にキリリクでも、と言ったら、
とっても丁寧に詳しくリクくださったので、イメージしやすくて書きやすかったです♪
が。。。
いかがでしょうか。。。ご意見・訂正他、まりんさまのみ受付させていただきますネ。
”同級生、クラスメイトで大人しい女の子。こっそり試合を見に来てくれる。
さりげなく無記名で手作りお菓子を”とのリクでしたっ!
まりんさま、ありがとうございました。
そしてそして、最後までお読みいただき、ありがとうございました。
陳謝。
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