黒子くん!



さよならっ!









*** 温めて。。。









後から冷静になって考えたら、やっぱりわたしが悪かったと思う。
ちゃんと、黒子くんの意見を聞かなかった...



ここ帝光中学校で、わたしと黒子くんは同じクラス。しかも、一応彼の隣に立てるポジションを持ってはいるのだけれど。
あの、バスケ部のマネージャー、桃井さん。黒子くんにベタ惚れらしくて、休み時間も黒子くんに会いにやってくる。
ほら。今も。黒子くんの横にピタっ、とくっついて、「テツく〜ん!」なんて言いながらすり寄っている。

彼女であるわたしとしては、あまり嬉しくはない。当然!

確かに、黒子くんも、あまりいい気分ではなさそうで、適当にあしらっているようには見えるけれど...

それにしても...!

桃井さんだって、わたしが黒子くんの彼女って知ってて、わたしの目の前で、それはないんじゃない???

わたしは、居てもたっても居られず、教室を飛び出した。




屋上で、一人、膝を抱えて蹲る。

...」

上から、優しい声が降りてきた。

でもわたしは、顔を上げない。

だって、すごい顔、してるもの。涙で顔はぐちゃぐちゃだし。


「......もう、いやだ。耐えられない...」

わたしの声は、くぐもっていた。

黒子くんは動かない。聞こえているはずなのに、どうして?なぜ何も言ってくれないの?

何か言ってほしい。わたしを安心させる言葉を言ってほしいのに...

何で?どうして?


わたしは、かなり自棄になっていた。


がばっ、と立ち上がり、

「もういい!黒子くん、さよなら!」


それだけ言い放って、わたしは、ずかずかと歩いて、階段を下りて行った。




黒子くんは、追いかけて来なかった。





とはいうものの、同じクラスだと、顔を合わせてしまうので、わたしは、具合が悪いから、と言って、早退した。



家へ帰っても、涙は溢れてくる。本当に黒子くんのことを嫌いになった訳じゃない。桃井さん自身だって、そんなに嫌いじゃない。わたしが、ただ、嫉妬していただけ。黒子くんだって悪くないし、実際、桃井さんのこと鬱陶しそうだったし。でも、今さらどうしようというのだ。もう引き返せない気がする。黒子くん、怒ってるだろうな...

でも、何でだろう...

黒子くんに、会いたい...





夕食は、普通どおり食べて、わたしは、「ちょっと出かけてくる」と言って、外へ出た。何となくじっとして居られなくて、ただ何も考えず歩きたかった。けれど、歩いて歩いてふと見上げると、目の前は黒子くんの家だった。

はは。やだな。わたし、何してるんだろう。ちょっとでも、"会いたい"って思っちゃったから、無意識に来てしまったんだろうか。でも、今さら合わせる顔もないし、家に帰ろう、と、振り返った瞬間、

さん...?」

後ろから声がして、家から黒子くんが出てきた。

「え?あ、あはは。ご、ごめんなさい。別に、何でもないから。」

そう言って、帰ろうとしたら、腕を掴まれた。


「せっかくだし、良かったら入りませんか?」
「うううん。いいよ。お家の人に悪いでしょ?」
「あ、今、まだ誰も帰ってなくて。僕だけなんですけど。」
「え?いいの?」


どうぞ、と誘われるがままに、手を引かれて、わたしは黒子くんのお家へお邪魔することになってしまった。そして、黒子くんの部屋へと通された。


何度も来た黒子くんの部屋。男の子の部屋にしては結構きちんと片づけてあって、すっきりしている。無駄のない黒子くんの性格が出ているような部屋だった。

「ちょっと待ってて下さいネ。飲み物持ってきますから。」

そう言って黒子くんは階下へ。何だかわたしは、複雑な気持ちだった。"さようなら"って言ってしまったのに、黒子くんの部屋に来ているなんて、何だか変だ。どう見ても黒子くんは怒ってない風だし。なんかでも、あんなことを言ってしまった手前、やはり落ち着かない。ここは早く切り上げよう、とそんなことを考えていたら、黒子くんがマグカップを二つ持って、部屋へ入ってきた。


「はい。どうぞ。」

黒子くんは、そう言いながら、近くのテーブルへ片方のマグを置いてくれた。ミルクココアの甘い香りがした。「いただきます」と言って、わたしはそのマグカップを口へと運んだ。ちょっと熱めだったけど、体の中に染み込むような温かさで、思わず、ホ―ッ、と息が漏れた。


「落ち着きましたか?」

そう黒子くんは言って、わたしの方へと目を向ける。無意識に「うん」と言ってしまったけど、気持ちの中は複雑だった。


「黒子くん、怒ってないの?」
「何をですか?」
「あ、いや、えっと、わたし、今日学校で、黒子くんに"さよなら"って言っちゃったし。」
「ああ。怒ってはないです。ちょっとびっくりしましたけど。」
「え、あ、そりゃそうだよね。ごめん。わたし、舞い上がっちゃってて...」


黒子くんは、両手でマグカップを持って、一口すすった。そして、そのマグカップをテーブルへ置き、わたしの方を向いたかと思ったら、両手でわたしの顔を包み込んだ。


「え?」
「こんなに冷たくなるまで歩いて...風邪引いたらどうするんですか。」
「く、黒子くん...」
「こうやってやると、あったかいでしょ?」


黒子くんはちょっと微笑んで、それから、わたしのマグカップを受け取ってテーブルへと置き、そして今度は、わたしを丸ごと包み込んだ。


「僕がいけなかったんです。君を不安にさせてしまった...」
「黒子くん...」
「寂しい思いをさせてしまいましたよね。今度ははっきり、桃井さんを突き放しますから。」
「え?いや、そこまでしなくても...」
「いえ。君にあやふやな態度を見せてしまったのは事実ですから、僕もきっちりけじめをつけます。」


わたしは、黒子くんに体を預けた。すると、黒子くんのわたしを包む腕に力が籠められた。







fin

by ゆかり 2012/03/08








《つぶやきという名のあとがき》

只今脳内黒子くんモード全開ですな(爆)。
続けて二作完成です!

ちょっとシリアス寄りになってしまいましたが、
いかがでしたでしょうか。

実のところ、わたしも桃井さん、ちとニガテです^^ゞ
決して嫌いではないですけど、黒子ファンとしては、
あのポジションはキツイですわー。あはは。
ということで、わたしの気持ちが思いっきり投入されたものに
なってしまいました〜( ̄▽ ̄;;

最後までお読みいただき、ありがとうございました。
陳謝。