何といっても、彼は目立つ。
特に意識はしなくても、勝手に目に入ってくる。
取り巻きのファンはめっちゃ多いし、わたしなんか、とてもじゃないけど、
近付けるがらでもないし。
そう。
遠くから、見てるだけで十分。
試合の前なんかは、校内放送で、部長である彼、跡部景吾くん、直々に
応援に来い、のメッセージが流れ、氷帝コールの練習。
わたしも、友人とよく応援に行っていた。
コート内の彼は、それはカッコいい!
指パッチンも好きだけど、
やっぱり、プレーをしてる姿を見る方が、断然好きだ。
真剣に取り組んでる姿は、本当に魅力的。
時々垣間見える、顰めたような厳しい表情も、相手を睨みつけるような眼差しも、
とにかく、彼が見せてくれる、どんな表情も大好きだ。
でも、わたしから告白なんて、間違ってもしない。
同級生とはいえ、この莫大な広さの氷帝学園内。どうせ気付いても貰えてないだろうし、それでも、二年生の時は同じクラスだったんだけどなぁ。でも、でも、話したことだって、ほんの一言二言。わたしにとっては、それはそれは、一生の記念に残る貴重な出来事だった。
***** Tea Time 跡部 Ver.
帰宅部のわたしは、いつものように、ボーっと教室で過ごした後、帰るべく昇降口へと足を運んだ。
いつも生徒会で忙しい彼だけど、今日はコートで練習してないかな、なんて、淡い期待をしつつ、でも、自主練してるって聞くし、やっぱ生徒会室なんだろうか、などといろいろ考えを巡らせながら、げた箱の自分の靴をとろうとしたその時だった。
「おい、お前」
一瞬、誰に対してなのかが分からず、まさか自分じゃないだろうと無視しようとして、そんな余計な思考が邪魔をしたばっかりに、その声が耳から脳へ到達するのに時間が掛かったのか、判断するのにかなり間があったような気がして、聞き間違えるはずもない、想いを寄せている彼の声だ、とようやく辿り着いて、やっとその声の主の方へ顔を向けた。
「、お前結構、いや、かなり鈍いな。」
「え?」
「いや、なに、こっちのことだ。おい、ちょっと俺に付き合え。」
行くぞ、樺地、という声掛けの後、ウス、という樺地くんの声がして、あの図体でどこにいたのか、物陰から樺地くんが現れて、ほら、も、と手を取られ、引っ張られるように連れていかれ、三人で廊下を歩いた。
さすが、運動部なだけあって、なのか、足のリーチのせいか、跡部くんは歩くのが速い。もうちょっと速く歩け、って声がしたような気がしたけど、日ごろ鍛えてないわたしが追い付けるわけがない。それよりも、どこへ連れて行かれるのか、何かわたし迷惑掛けたっけ、といろんなことを考えていたら、校内にあるサロンへと到着した。
放課後なだけに、さすがに空いている。
窓辺でもない真ん中でもない、壁際の少し隅の方のあまり目立たない席へと進み、まぁ、座れ、と促された。
ちょっと離れて立っている樺地くんへと目配せをしている跡部くんを横目で見ながら、わたしは何が何だか分からず、膝に抱えた鞄をグッと握りしめて座っていた。
「何、緊張してんだ。取って食やしねぇよ。」
「はぁ。」
そんなぎこちない会話をしていたら、樺地くんが紅茶を二人分、持って来てくれた。
この置かれた状況が全く把握できず、かなりテンパってるわたしだけど、何となく違和感を感じて、
「あれ?えっと、樺地くんのは?一緒に飲まないの?」
と尋ねると、
「あぁ。樺地には、ちょっと頼んでいることがある。それとも、アイツと一緒に飲みたいのか?」
「ハハ。いや、そうじゃないんだけど、何だか悪いような気がして。」
「ま、気にすんな。」
そう言って、優雅にカップを口に運ぶ跡部くん。
本当に、どうしてわたしはこんな有名人とこんなところでティーカップを前にして同席なんてしちゃってるんだろう。
「お前も、冷めないうちに飲めよ。」
「う、うん。ありがとう。」
そう言われても、かなり緊張してて、喉を上手く通過してくれなくて、思わず、ゴックン、って喉が鳴っちゃうし、味なんて分かりゃしない。
「どうだ。旨いか?」
なんて言われても、だから味なんて......と思った一口目。
飲んだ後の鼻腔を抜けるような、フワッとした甘さ。砂糖を入れてないのに、この、程よく喉から口から鼻から顔全体にまで広がるような甘美なまでの香りは何だろう。
「どうした。味も分からねぇほど、緊張してんのか?」
はい、と言いたいところだったけど、こんな、生まれて初めて感じたことを、伝えたくなって、
「いや...この香りが、すごく甘くて美味しい。」
「そうだろう。俺様特製のブレンドだ。とは言っても、マリアージュ・フレールのマルコ・ポーロがかなり多めに入ってるけどな。」
え?マリア...何?
名前が速すぎて、おまけに発音も良すぎて、育ちの良すぎる(むしろ逆)わたしにはよく分からなかったけど、これは本当に癖になりそうだと思いながら、一気に飲み干した。
さすがの跡部様も、そのわたしの飲みっぷりに驚いたようで、
「クククッ。気に入ったようだな。お代わりあるぜ?何なら、毎日こうして一緒に飲んでやってもいいがな。」
えっ?と、わたしは言葉にならず、またそのわたしの表情・反応がおかしかったのか、肩を震わせて笑いながら、
「お前、面白いな。また明日も準備してやるから、同じ時間に待っとけよ。」
そう言って、また何処からともなく樺地くんを呼び寄せ、お代わりを注いでもらい、わたしは二杯目を口にした。
次の日は、ウィタードのアールグレイをご馳走になった。
少しずつ、紅茶の名前が覚えられるように頑張んなきゃ、と思いながら、跡部くん特製の紅茶を頂いた。
fin
by ゆかり 2012/01/11
《つぶやきという名のあとがき》
本日、二作目。
書ける時は、結構一気に書きあげちゃえるって、よく分かりました^^;;
でも、この作品は、実は二年くらい前に、三分の二くらいを仕上げてたもので、
後、ちょこちょこ修正しながら書きあげてみました。
やっぱ、跡部って、書きやすいかも?!
てか、最近、他のサイトさんでも、跡部ばっか読ませて頂いてるので、
脳内が跡部モードになっちゃってるんだろうなぁ。。。
跡部様とTea Time。いいですねぇ。。。
わたしも、ご一緒してみたいです。
ちなみに、この中に出てきた二種類の紅茶、
どちらもわたしの好みです。結構好きなんです。
一時期いろいろ飲み比べたことがあって、その時、
いっぱい取り寄せたので、たくさん飲みました。
美味しかったです。ハイ。
最近飲んでないから、また飲みたいな。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
陳謝。
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