アナタに...
キミに...
永遠の愛を誓う
*** イパネマの娘
周助の運転は心地いい。というか、周助はセフティ・ドライバーだ。テニスもそうだけれど、ソツがないと言うか無駄がないというか。シンプルでかつ丁寧。でもなぜかこれが、性格、となると、どうもそうはいかないみたいで。ちょっとミステリアスな魅力があるというか。時々掴みどころがなかったり。でもその周助の誠実なところとか、紳士的なところとか、そういう部分でカバーできちゃうから受け入れてしまえるんだろうな、と思う。
今日はわたしたちの記念日。交際がスタートした日で、しかもわたしの誕生日。なので、いつも周助はたくさんの気持ちをプレゼントしてくれる。改めて幸せを実感できるひとときだ。いつもは一緒に食事してプレゼントをもらって、でだいたい終わっちゃうのだけど、今日はお休みの日、、、というか、本当は、周助はお休みなのだけど、わたしは仕事の日。だって今日はド平日。でも、プロテニスプレーヤーとして活動をしている周助は、どうしても土日に大きな試合が入ったりするので、平日に時間が取れることが多い。だけど、普通にOLしているわたしはそういうわけにはいかない。なのに、よく今までやってこれたと思うけど。特にお互い我慢とかしているわけでもないけれど、それなりに譲り合ってきた結果、というところだろうか。成り行き、と言えばそんな気もするけれど。お互いにこだわりがなかったのが功を奏したのかもしれない。
というわけで、今日はもちろんわたしが休みを取って、周助の運転であちこち回って、只今ディナーも終えた帰り道、最後にドライブを楽しんでいるところ。それが今日は一日、どうしても気になっていることが一つだけあった。それは、この周助の車のバックミラーにかかっているチェーン。車内は至ってスッキリしていて、芳香剤すらほとんど分からないくらいの周助らしい車なのに、今日は珍しく、しかもこんな、いかにも、な、何か意味ありげなところに目立つように掛けてあって、かえって何も聞き出せずにいた。どうしよう。聞いたところできっと、何でもない返事が返ってくるのは分かっているのだけど、どうして今日みたいな日に限って、こんな......考えれば考えるほど訳がわからなくて、結局こんな時間まで聞けずにいたのだけど、それならいっそ、帰り際に聞いてみようか、と思ったりして、タイミングを見計らっていた矢先、とあるパーキングで車は停車した。
「ちょっと、外、出てみようか。」
「う、うん。」
日は落ちているけれど、完全に真っ暗になるにはまだ時間がある。程よい色のグラデーションに思わず感嘆の息が漏れる。
「あの橋、渡ったことある?」
「うううん、そういえばないかも。」
「じゃあ、ちょっと行ってみようか。」
再び周助の車に乗り込む。白い長いアーチにその曲線とは逆の形に程よいバランスで灯る明かり。それらを見上げる位置へと車は移動する。
湾内をまっすぐ横切る橋。窓の外を見ると、街明かりが星を散りばめたようにたくさん煌めいて見える。反対側の窓を見ると、船や工場等の点滅する明かり。橋自体の高さが結構あるので、まるで星空の中を通っているようだ。
「フフ。なんだ。僕のことを見てるのかと思ったのにな。」
いつもの周助らしいやりとりに、わたしも思わずクスクスと笑った。今日は、これも何となくなんだけれど、周助に対しても少しいつもと違う印象を感じていた。いつもよりも言葉数が少ないような...いや、決していつもおしゃべりな方ではないのだけれど、何となく何か考えているような、本当にわずかな感じなのだけれど、いつも周助だけを見つめてきたわたしだから分かることなのかな、と思ったり。いや、ただ大きな試合の後でちょっと疲れ気味なのかもしれないし。と、わたしも今日は何となくいろいろ考えさせられることが多くて、わたし自身もいつもよりも少し言葉を発する回数が少なくなっていた。
そうこうするうちに、橋を渡り終え、反対側のパーキングへと入っていった。そこにはちょっとしたお店があったので、車を降りて二人で少し寄ってみた。そこで、橋をモチーフにした、ビーズでできた色違いのカワイイストラップがあったけど、そういえばこの前もお揃いの何か買ったっけ、と思い出して、今回はいっか、と手にとっていたそのストラップをかけ直して、隣のマスコットを見ていた周助の方へと歩み寄った。
「そろそろ出ようか。」
「うん。」
そうして、さっと周助に手を取られ、一緒に車へと歩いて行った。ちょっとドキドキした。手を繋ぐなんてちょっと久しぶりだった。しかも隣で、じゃなく、周助に引っ張られるように。学生の時を思い出す。恥ずかしがってよくもじもじしていたわたしを、周助はしようがないなぁ、と言って、よく強引に手を引っ張って行ってくれていた。とっても懐かしい感覚。感情まであの頃に戻っていくよう。ちょっぴり忘れかけていた新鮮な感覚に、顔が火照っていくのを密かに感じていた。
車に乗り込み、そのまままた橋を渡るのかと思ったら、ウインカーは反対方向へと指す。え?と思いながら周助の方を見たけれど、周助は当然のようにハンドルを動かす。そしてわたしは必然的にバックミラーのチェーンへと意識がいく。出来るだけ見ないようにしていたけれど、前を向いていると視界には当然入ってくる。わたしは何となくモヤモヤした気持ちのまま、車の向かう方向へと目を向けた。
着いたところは、もう一つ高台から湾内を見下ろせるようになっているところだった。ここからだと、湾の曲線と橋の直線がバランスよく見渡せる。この時間もとても綺麗だけれど、昼間でもきっと眺めの良いところなんだろうな、と思いながらその景色を眺めていた。そして、さっきから、いや、始めっからずっと気になっていたこのチェーン。今がチャンスだ、そう思って、わたしは口に出した。
「ねぇ、周助、このチェーン...」
とわたしが言いかけたところで、周助の人差し指に、わたしの言葉は遮られた。え、ちょっと、と思いながら周助の方を見たら、
「ちょっと待って。このチェーン、見てて。」
そう言って、周助はわたしの口を抑えた反対の手で、そのバックミラーに掛けられた鎖をシャラン、と音を立てて握った。そうして、少しその握りこぶしを動かして、開いたと同時にそのチェーンは周助の手から滑り落ち、とは言っても、バックミラーに掛かっているので落ちることはなかったけれど、何かの重みでぶらんとぶら下がった。何?と思って、そのぶら下がった下の先をよく見てみると...え?指輪...いや、そんな、さっきは確かチェーンしかなくて、指輪なんか、、、って、え?周助、これって、マジック???
「、このチェーン見て、ずっとヘンなこと考えてたでしょ。フフフ。嫉妬してくれてたんだね。嬉しいな。」
「いや、周助。そこ、喜ぶとこじゃないでしょ?わたしずっと気にしてたんだから―――――」
「うん。ごめん。もうちょっとだけ静かにしてて。」
再びわたしの唇に周助の指が添えられ、その手はそのままわたしの手をとって、今度は周助の胸へと連れて行かれた。わたしの手を周助自身の胸へと押し付け自分の手を重ねる。周助の鼓動はかなりの速度で打ち続けていた。それはそのままわたしの鼓動へと伝染していく。珍しく周助が緊張している、ような気がする。その緊張感がわたしにも移る。何だろう、何かあったんだろうか、いや、こんなに固くなっている周助は初めてだった。でも、周助はわたしを見てニコッと笑う。わたしはどう反応していいか分からなかった。
すると、周助の綺麗な指がまたそのチェーンに添えられ、ぶら下がった先の指輪を握った。そして、瞬間、また周助の手からチェーンが滑り落ちたかと思ったら、チェーンには何もなくなっていた。そして、わたしの手を胸に一緒に当てていた左手を離すと、ポケットから何かを取り出し、右手に握っていたものをそこへと入れた。そして、それに両手を添えて、それはわたしの方へと向けられた。
「、僕の生涯のパートナーになって欲しい。」
もちろんそれが何を意味するのかは頭では理解できた。けれど、実際は、頭の中は真っ白で、何がなんだか...だって、さっきまで、チェーンのこと疑ってたし、奇妙なマジック見せられて、そして、プロポーズ...わたしの頭は全くこの状況に追いついていなかった。
「ごめん、驚かして。」
「え、い、いや、あの、ごめんなさい、わたし...」
「うん、分かってる。このチェーンはね、が日頃、仕事の都合上、あまり指輪が付けられないと思ったから、いつでも身につけられるように、と思って、この指輪に合わせて用意したんだ。」
そう言って、バックミラーからチェーンを外して、わたしの首へと付け直してくれた。そして、
「僕の気持ち、受け取ってくれるかな。」
そう言いながら、ケースに入った指輪をわたしの手の上に乗せた。
「もちろん。喜んで。」
わたしの目からは涙が溢れていた。それを周助は指ですくって、それから抱きしめてくれた。そしてちょっと触れるだけの優しいキス。
「ごめん。ちょっとびっくりしちゃって。さっきの、すごいね。手品みたいだった。」
「フフ。あれは、昔の古い友人に教わったことがあってね。ちょっとした君へのサプライズ効果のつもり。」
そっか、と言いながら、わたしは改めて自分の手の中にある指輪を見つめた。
「周助、ありがとう。すっごく嬉しいんだけど、何だか夢みたいで、なかなか実感として沸かなくて...」
「フフッ。そう?じゃあ、もっと夢見せてあげるよ。今夜は帰さない。」
「周助...」
再び、夜景の明かりを受け、わたしたちの影は重なった。
そして、互いに見つめ合い、永遠の愛を誓い合った。
fin
by ゆかり 2012/07/18
《つぶやきという名のあとがき》
すみません。大変遅くなってしまいました。
どうにか、10000打企画、最終話、up出来ました〜!
てか、既に、20000打に行ってしまいましたが。。。>汗々
最後のお話は、内容が内容なだけに、どうしても納得いくまで仕上げたかったので、
ちょっと時間がかかってしまいました。
途中も、何度も読み直したり書き直したり。。。
でも、、、、、どうでしょうか。まぁ、今のわたしには、
この程度までしか、書けないかも。。。しようがないです。
もっと勉強させていただきます。
ちなみに。。。
手品を教えてくれた古い友人=仁王くんならいいなぁ、と思いながら、
書いちゃいました。だって、DVDに一緒に出てたんだもん!へへっ。
ということで、今回の初企画、
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
陳謝。
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