アナタと一緒に見た景色...
わたしはきっと、ずっと忘れない...
*** Book of Days
学級当番の仕事も終わり、わたしは学級日誌を書いていた。外を見ると雪が降っている。どうりで寒いはずだ。雪が降り出すと、辺りが余計に静かに感じる。まるで雪が音を一緒に吸い込みながら落ちていってるようだった。
日誌を職員室に持って行き、先生にさようならを言って、わたしはいつものように昇降口へと向かった。この廊下にも、外からの冷えた空気が入ってくる。足元が寒いなぁ、と思いながら歩いていると、ちょうど昇降口横の階段のところを通り掛かった時、その階段側から声をかけられた。
「やぁ、さん、お疲れ様。」
「あ、不二くん。」
それは、同じクラスの不二くん。この時間なら、てっきりテニス部の方へ行ってると思ってたのに、あまりにも予想外でわたしは驚いていた。
「あれ...えっと、部活は?」
「あぁ。今日はこの天気だし、竜崎先生もいなくて、早く終わったんだ。」
んーと、じゃあ、どうしてこんな、誰もいない階段に、不二くんがいるのか、わたしにはよく分からなかったけど、正直なところわたしにとってはもう十分すぎるくらいラッキーなことだと思っていた。今日はクリスマスイヴ。いつものように家族と過ごすイヴになりそうで、おまけに明日からは冬休み突入で、と思っていたところに、最後の最後で想いを寄せている人に出会えるなんて。こんな素敵なイヴはない、といろいろ考えを巡らせていたら、
「さん、途中まで一緒に帰らない?」
棚からぼた餅? いや、もっとカッコイイ諺があったような気もしたけど、と、自分の語彙の乏しさを恨みつつも、目の前で微笑んでる不二くんは、まさか幻影じゃないよね、なんて考える余裕まであったりして、いや半ばパニくってるわたしだけど、不二くんが首を傾げて返事を待ってるようだから、早くこたえなきゃ、と思って焦ってしまって、
「あ、えと、はい。だいじょうぶですっ」
って、思いっきりたどたどしくっておまけに敬語になっちゃって、不二くんにクスクス笑われてしまった。ぅわぁ、わたし、何やってんだか、と思わず俯いてしまい、寒いはずなのに顔が火照ってしようがない。すると、さぁ、行こうか、と手をつかまれて、そのまま一緒に昇降口へと歩いて行った。
さすがに靴を履くときは手が離れちゃったけど、出ようとしたら、さぁ、って、また手を繋がれて。準備の良い不二くんは、持ってきてた傘をぱっと広げて、手を繋いだまま傘の中に入れてくれた。不二くんってこういう人だったっけ? あまりにも自然だから、積極的な人なのか至って普通の行動なのか、その境目がイマイチよく分からなかったけど、もうそんなことを考える余裕もないほど、わたしは極度に緊張していた。
どこをどう通ってきたのかも分からない、ただ不二くんが歩くのに合わせて一緒に歩いていただけだったのだけど、ふと周りを見てみると、いつもとは少し違う道を歩いていることにやっと気がついた。あれ?と思いながら歩いていると、街の大通りに差し掛かった。
「今日のライトアップ、綺麗なんだ。さん、まだ時間あるよね。」
わたしは無言でこくんと頷いて、辺りを見回す。薄暗くなってきた中に、ほんのりキラキラした明かりが灯っている。
赤や黄色、緑等、煌びやかな光を放ちながら、木々の電飾が輝いていた。行き交う人々も、時々立ち止まってそれを見上げたり、写真に収めたり、と思い思いの行動を取りながら、誰もが楽しんでるようだった。そして、わたしもそんな光景に見入っていた。
「・・・・・綺麗だね。」
「うん。でもね、本当の目的はここじゃないんだ。」
「え?」
そうわたしが返事をするが早いか、不二くんはまたわたしの手を取って、また違う方向へと向かっていく。もう雪はあまり降ってなかったけれど、不二くんは傘をたたむことなく、そしてわたしの手も離すことなく、大通りから離れた方へと進んでいった。わたしは半分引っ張られるように必死で不二くんについていった。
少し人通りのまばらな小道へとわたしたちはやってきた。よぉく目を凝らしてみると、通りの街路樹に電飾が掛けてあるのは見える。でもまだ灯されてはいなかった。
「ここって、ちょっとレアなところでね、この三日間の、数時間だけしか見られないんだ。」
「え?そうなの?」
「うん。ちょうどもう少ししたら始まるよ。見てて。」
4、5分くらいだろうか。わたしたちは、そのままその通りを眺めていた。すると、ちょうど手前から順番に明かりが点っていった。
色はブルー。まるで星が空から降ってくるような電飾。青い電飾に白い光がキラキラと舞い降りてくるかのように、上から下へと降り注いでいた。通り全ての木々に灯ると、それは圧巻ともいえる光景。足元にはうっすらと雪が埋め尽くしていて、その白にも電飾の綺麗なブルーが少しだけ反射していて、とっても綺麗だ。また横に不二くんがいるととてもロマンチック。わたしはしばし、声も出せずにそのまま見入っていた。
「どう?凄いでしょ。」
「・・・・・うん。すっごく綺麗。」
すると、いつの間にか傘をたたんだ不二くんの手が、わたしの手に触れ、ゆっくりと包み込むように握られた。
「・・・不二くん...」
「こうして君と一緒に見てみたかったんだ。」
「......」
「さん、もし良かったら、また来年も一緒に見てくれないかな。」
「え?」
「迷惑じゃなければ。」
「そ、そんな。迷惑なんて...」
「そう?良かった。」
「不二くん、ありがとう。」
「ん?」
「わたし地元なのに、こんなにステキなところがあるなんて、全然知らなかった。不二くんが連れてきてくれなかったら、見られなかったよ?ほんとにありがとう。」
「うううん。お礼を言うのは僕の方だよ。突然誘っちゃってごめんね。」
「そんな......嬉しかった。」
「え?」
「不二くんと一緒に見られるなんて。一番のクリスマスプレゼントになったなぁ、って。えへへ。なんてね。」
「フフフ。先に言われちゃったな。」
「え?」
すると、不二くんは、そのつないだ手をぐっと自分の方へと引き寄せて、わたしの両手を不二くんの両手で包んだ。少し見上げれば、目の前に不二くんがこっちを見て微笑んでいる。
「さん。僕がさっき言った意味、分かってる?」
「え?」
「”来年も一緒に”」
「う、うん...えっと...」
「これからもずっと君と一緒にいたいんだ。」
「不二くん...」
「この冬休みも、お正月も、一緒に過ごしたいんだけど。」
「...あ...」
「君のことが好きなんだ。」
もう、どういう顔をしていいか分からなかった。そのままわたしは、ふわっと不二くんの腕の中に包まれていった。火照った顔に不二くんのコートの冷たさが気持ちいい。そして不二くんの包み込み方が心地よかった。何て自然に優しく包むんだろう。大事なものに触れるようなそんな感じだった。
「メリークリスマス、ちゃん。」
「・・・メリークリスマス、不二くん。」
じゃあ、明日はクリスマスだし、早速二人で出掛けようか、そんな話をしながら、二人手をつないで、星降る通りを進んでいった。
fin
by ゆかり 2012/06/04
《つぶやきという名のあとがき》
ん゛ー、ちょっと時間がかかってしまいました。
あ〜、季節柄のせいか!あ、そうかも?!なんて^^ゞ
ただ単に、思うように進まなかっただけです。
でも、書き始めると、サクサクいくことが分かって、ちょっぴり安心したゆかりでした。
もう、季節もぐちゃぐちゃですみません^^;; でも、エンヤと言えば、やっぱクリスマスかな、と♪
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
陳謝。
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