青い空に浮かぶ白い雲
眼下には蒼い海に白い波しぶき...
そしてわたしは、アナタに二度目の
恋をする...
*** A Summer Place 〜 夏の日の恋 〜
船上にて。
わたしは、特にすることもなく、ただボーッと遠くの島々を眺めていた。
今は夏休み真っ只中。とはいえ、中3受験生にはそんなことはあまり関係ない。部活も大きな試合はほぼ終わりもう引退ムード。学校にも特別用はなく、後は、塾と自宅を行ったり来たりの生活が続いていた。
両親に、”たまには息抜きにいいんじゃない?”と勧められ、連れて来られたのが、この2泊3日の臨海クルーズ。確かに船内には、遊ぶところや読書をするところとか、いろいろあるのだけれど、そればかりも飽きてきちゃうし、それにどこに行ってもほとんどが大人ばかりだし。兄弟のいないわたしには、話し相手がいないので、退屈になって、甲板に出てみたりあちこちふらふらと歩き回っていた。
船上から階段を降りようとしていると、階下のデッキに誰か佇んでいた。白いシャツを着てて、少し風に靡く髪を押さえている。その仕草がとても綺麗で、あまりにも美しく見えたから、女の人かと思ったけど、よく見たら男の人のようだった。階段は暗く、デッキの方は明るいので、眩しくてここからではよく見えない。でも、その彼の靡く髪はキラキラして綺麗で、さらにその佇まいもまるでモデルか何かのように決まっててカッコよくて、わたしはしばし見とれていた。何だかちょっとドキドキしてくる。だって、この日常から掛け離れた状況での出会いなんて、ロマンチックだし素敵すぎる!と、ミョーなことを考えていたら、気付かれたのか、その彼がわたしの方を向いた。ずっとこっちを見ている、ように見える。えっと、わたし、無意識にヘンなこと口走ってなかったよね...でも、階下の方が光が強すぎて、彼の顔がよく見えない。すると、彼の方もわたしの方が見えないのか諦めた風で、またもとの姿勢に戻ってしまった。
にしても...綺麗な人だ。どんな顔をしてるんだろう。わたしは気になって仕方がなかったのだけど、覗き込むわけにもいかないし、どうしようか、と思いながら、とりあえずゆっくり階段を下りていった。そして、彼の方を一瞬見たけど、まぁこの船の上にいる以上、また出会うかもしれない、と思い、結局俯いてその場を離れようとした。すると、
「あの、ひょっとして、さん?」
・・・・・え? し、知り合い???
こんなところに、しかも、こんな綺麗な知り合い、居たっけ? と思ったけど、何だかどこかで聞いたことのある声... と思い、振り返ると......
「ふ、不二くん?」
不二くんとは、一年生の時に一度同じクラスになっただけで、それからは、委員会とかでも全く接点がなかった。特別仲が良かったわけではなかったけれど、そこそこ話はしてたから、まぁまぁ親しいほうだったんじゃないかと思うけど。それにしても......こんなところで会うなんて。
「いやぁ、驚いたよ。本当にさんだよね?」
「う、うん。あの、、、本当に不二くんよね?」
クスッ、と不二くんは笑って、
「あんまり綺麗な子がいるから、思わず見とれちゃってたんだけど、まさかさんだとは思わなかったな。」
え?え? 立て続けに、不思議なことばかり。それは、わたしのセリフ。わたしが綺麗な不二くんに見とれてたんだよ? って言いたかったけど、何か聞き捨てならない言葉が。わたしが、綺麗に見えたって...???
「あの、いや、実は、わたしも、綺麗な人がいるなって思って、ちょっと見とれてて...」
「え?ほんと?フフッ、何だか不思議だね。」
いや、不思議なのは不二くんのその雰囲気で...わたしは、何か夢を見ているような気分だった。
ちょっと話さない? と不二くんが誘ってくれて、わたしたちは船内のカフェに来た。すごく大人な雰囲気のお店なのに、不二くんはすっごく合ってるというか、違和感がない。密かに想いを寄せていたわたしとしては、思いも寄らぬ出会いに、本当に夢じゃないだろうか、と自分の頬を抓りたい気分だった。
「さんは、誰と来たの?」
「あ、両親と。わたしの気分転換に、って連れて来られたんだけど、何だか退屈しちゃってて...」
あは、と苦笑すると、不二くんは、実は僕もそんな感じ、って言った。
「僕は、姉さんと一緒に来たんだけど、姉さんは姉さんで、知り合い見つけて話し込んじゃってるし。僕も同じことばかりしてても退屈で、海を眺めてたんだ。」
そうなんだぁ、とわたしは言って、ミックスジュースに口をつけた。ほんのりトロピカルな味で、喉が潤う。すると、美味しいでしょ?、と不二くんが言った。
「うん。香りがすごくいい。」
「何杯も飲んじゃったけど、このジュース、飽きないんだよね。」
不二くんもそう言いながら、同じジュースを啜った。・・・・・・何だか本当に不思議な気分だ。こんなところで不二くんに会えるなんて。しかも、こうして二人で座って、飲み物なんか飲みながら話をしているなんて。この状況が信じられなくて、わたしはジュースと不二くんを交互に見つめることしか出来なかった。
「クスクス。さん、どうしたの?」
「え?」
「何だか、落ち着かなさそうっていうか、僕がいるのが不思議?」
「あ、うん。何だか信じられなくて......あ、ヘンなこと言ってごめんね。」
「うううん、僕も一緒。こうして君と一緒にいられるって、信じられない気分だよ。」
え? とまたしても、不思議発言。不二くんといると、驚くことばかりだ。
「ねぇ、この後、ビリヤードしない?」
「え?あ、でも、わたし......」
「もし、分からなかったら、僕が教えてあげるから。」
そう言われて、連れて来られたビリヤード場。やっぱり大人の人ばかりだったけど、思ったよりも空いていて、わたしは不二くんに教えてもらいながら、一緒にプレーを始めた。
不二くんはとっても上手だった。隣でされてた人が、ぉお、って思わず声を上げてしまうほどの、テクニック、とでも言うのだろうか。ビリヤードなんてほとんどやったことのないわたしがいうのも変だけど、不二くんはほんとに、大人顔負けのプレーをしていた。
何度か繰り返したところで、ちょっと外の空気にでも当たろうか、と不二くんは言って、私の手を取って、通路へと向かって行った。わたしはドキドキ。だって、あまりにも自然に不二くんがわたしの手を握ってくるから、わたしも出来るだけ意識せずにそのままされるがままにしていたけれど。
見上げれば青空が広がっているけれど、もう日は少し沈みかけていた。綺麗な夕暮れ。またこれが、隣の不二くんにぴったりマッチする。どうしてそんなにも不二くんって自然に出来るんだろう。カッコつけてないのにカッコイイなんてずるい気がする。そう言えば不二くんって、何でも出来て凄い。テニスだってとっても上手だし、わたしなんか、体育でテニスやっても全然だったし。勉強も出来て、カッコよくて......って、今、こうして不二くんの隣にいるって、やっぱり信じられなかった。
「まさか...こんなことがあるなんてね。」
「え?」
不二くんって、唐突に話すことがあるから、ちょっと戸惑う時がある。でも、それも彼の魅力の一つなのかもしれないけど。
「僕、ずっとさんのこと、気になってたんだ。」
「え?う、うん......」
「一年生の時、同じクラスになって、二年生でも一緒になれたらいいな、って思ってたけど、残念ながら叶わなくて。最後の年くらい、とも思ってたのに、それもダメで。」
「不二くん......」
「さっき、キミが階段から降りてきた時、本当にさんって分からなくて。でも、何か惹かれるものがあって、見入ってしまったんだ。よくは見えなかったんだけど、どうしても目が離せなくて。その子が降りてきた時思わず振り返ったらさんで...」
「...あの、不二くん。それ、わたしも同じように思ってた。」
「ホント?」
「うん。すごく素敵な人がいるなぁ、って思って見とれてた。まさか不二くんだとは思いもしなくて...本当にびっくりしたの。」
「すごいや、それって。僕たち、同じこと感じてたんだね。」
「あ...そ、そうなのかな...」
「嬉しいな。何かちょっと、運命めいたもの、感じない?」
「...不二くん。」
「君がいてくれてよかった。これからの三日間、いや、出来たら、これからもずっと、さんと一緒に過ごしたいんだけど...どうかな。」
「...わ、わたしでいいの?...」
「もちろん。君じゃなきゃ!よし。じゃ、行こうか。」
不二くんはそう言って、再びわたしの手を取って、そして一緒に階段を上った。
fin
by ゆかり 2012/05/23
《つぶやきという名のあとがき》
祝10000打記念、一作目であります。
どうしても、不二くんのお話を書くときは、情景を思い浮かべてしまうので、
描写が細かくなってしまって、読みにくいかも。。。ごめんなさい。
でも、少しでも楽しんでいただければ、わたしとしましても本望です。
どうぞよろしくお願いいたします<(_ _)>
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
陳謝。
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