アナタのオアシスになれるといいな...


わたしは心から、そう思った...









*** マンドリン協奏曲(ハ長調 RV425)〜ビバルディ〜








バスに揺られながら、わたしたちはイヤホンを片方ずつ付けて音楽を聴く。曲は最近気に入ってるビバルディのマンドリンコンチェルト。周助と一緒に聴くとなお和む。二人で肩を寄せ合って、目を閉じて音楽に聞き入る。最近はこのひと時がたまらなく好きだ。

3時間もバスに揺られていると、かなり山手の方へと入っていく。今日はこの近くの湖畔で二人でのんびり過ごす予定。わたしは張り切ってサンドイッチを作ってきた。もちろん周助用にマスタードのしっかり効いてるのとか、タバスコ入りのサンドイッチも準備。わたしはそこまでのはちょっと無理なので、卵にハム、ツナとかフルーツサンドを作ってみた。飲み物はもちろん紅茶で。ンー楽しみ。早くつかないかな。

すると、コテージのような建物がたくさんあるのが見えてきた。わたしたちは、そちらには特に用はないので、とりあえず湖畔を散策すべく、バスを降りて周りを見て回る。まだお昼には時間があったので、お店に入り、お土産とかも見てみた。

そうこうするうちにお腹も空いてきたので、また湖の近くへと降りて行って、敷物を広げ一緒に座ってサンドイッチを広げた。「美味しそうだね。」と周助は言って、まずはいきなりタバスコ入りからパクリ。ンー、この辛さ加減がいいかも、なんて言いながら、ポットから注いだ紅茶を飲む。周助って、ほんとに辛いの好きなんだなぁ、と思いながら、わたしもホイップクリームを塗ったいちごサンドを食べた。

食べ終わってから少し休憩したあと、周助が、トイレに行ってくる、というので、待っている間、わたしはものを片付けたり敷物をたたんだりしていた。そして、ふと横の木陰を見ると、野生のリスがいたので、とっても可愛いなぁ、と思いながら見ていたら、木の実をもってどこかへ行こうとするので、ちょっと散歩がてら行ってみようと思い、リスについていった。そのうちもう一匹出てきて、写真を撮ろうかと思ったけど、カメラを置いてきてしまったので、とりあえず携帯に収めた。
木に登ったり、木の実を拾ったりするリスたちを追いかけてたら、結構遠くまで来てることに気づいて、早く戻らなきゃ、と思い、元来た方へ戻ろうとしたけれど、なかなかたどり着かない。あれ?おかしいなぁ、確かこっちだったと思ったのに、そう思いながらあちこち歩いても、湖さえ見当たらなくなっていた。えー?、そんなにわたし歩いたっけ、と思ったその時、急に雨が降り出した。ぅわぁ、あんなに天気が良かったのに、どうして、と思ったけれど、雨足はひどくなる一方。どうしよう、と思って前を見たら、小さいログハウスのような小屋が目に入った。とりあえずそこで雨宿りしよう、そう思って近づいて、窓から中を覗いたけれど、誰もいないようだったので、一応ノックしてドアノブをひねったら、ドアは簡単に開いた。

ひと部屋しかない小さなその小屋には、テーブルと椅子が一つずつ置いてあった。靴のまま入れたのでそのまま中に入り、とりあえず、濡れてしまった上着を脱いで、その椅子にかけた。山の天気は変わりやすいって言うけど、ここまでとは、と思ったら、突然、ピカッと光って、そのうちゴロゴロと雷まで鳴りだした。それと同時に雨もひどくなる。辺りはどんどん薄暗くなってくるし、何だか肌寒いし、見たこともない部屋に一人きり。すっごく心細くなった。それよりも、周助、心配してるだろうな、と思い、携帯を見たけれど、どう見ても圏外の表示。はぁ、と途方に暮れていたら、またビカッ、と光って、すぐにドン、と落ちたような雷が鳴った。
雷自体はそんなに嫌いな方ではないけれど、さすがに今のは怖かった。地響きがしたし、雷雲が近づいてるのが分かる。窓を叩きつけるような雨、窓から空を見上げても、黒い雲で覆われていた。わたしはどうしようもなく、座り込んだ。どうしよう、周助を困らせてしまった、リスなんか追いかけなきゃ良かった、周助、怒ってるかな...でも...周助......会いたい......

すると、コンコン、っとドアをノックする音。雨の方がひどくて聞こえにくかったけど、確かに誰かが叩く音がした。え、誰? 怖くて、確認する勇気もなく、いないフリをしようとそのまま蹲っていたら、ドアがゆっくり開いた。そして、

?」

「え?......しゅ、周助?」

わたしの声がしたのを確認するかのようにドアが開き、周助が入ってきた。周助は、傘をたたんで入口に置き、良かったー、と言いながら、濡れたズボンや服の袖をパンパンとはたいた。

「まさかと思ったけど、ここにいるといいな、と思ってきてみたら、外の入口にこれを見つけてね。」

周助はそう言って、木製のボタンを見せた。

「あ。それ...」

よく見れば、わたしの上着のボタン。周助、良くわかったなぁ、と思ったけど、それよりも何よりも、周助に会えたことが嬉しいような、申し訳ないような、複雑な気持ちでわたしは座り込んだまま動けずにいた。

「周助......ごめんなさい。」

「うううん、無事でよかったよ。」

周助はそう言いながら、上着を脱いでテーブルの上に広げてかけた。そしてそのまま座り込んでいるわたしの方へ近づいてきて座った。

「どうしてこんなとこまで来たの?」
「あの...えっと...リスを追っかけてて...」

すると、周助は、フフフ、らしいや、と言って、座っているわたしをそのままギューッと包み込んだ。体温が下がっているからか、伝わってくる周助の温度がとても温かく感じる。その温かさがとても心地よくて、安心感さえ湧いてきた。しかしそれと申し訳無さと一緒に、目からは涙が溢れてきた。

「ほんとにごめんなさい。」
「すごく心配したよ。」
「周助......」
「湖に誤って落ちたんじゃないかとか、誰かに連れ去られたんじゃないかとか。」
「うん...うっ...」

すると、周助のわたしを包む腕に力が少し籠められて、ゆっくりゆっくり、わたしの頭を撫でながら話し始めた。

「君を探しながら、いろんなことを考えてて。なぜか、裕太のことを思い出してしまってね、一年前、裕太が家を出るって言った時のことを思い出して、それとが重なって、まで僕からいなくなってしまったら、って......」

周助はそう言いながら、ますますぎゅっと抱きしめてきた。わたしもその周助の思いに応えるように、思わず周助の背中に回していた手に力を籠めた。そして、わたしも、回していた手で周助の背中をゆっくり撫でた。

......」
「ごめんなさい。でも、大丈夫よ。わたしは絶対に離れない。ずっと周助のそばにいるから......」
「うん。僕もだよ。君を離さない。」

しばらく、お互いの冷え切った体を温め合うように抱きしめ合っていたけれど、そのうち光が差してきて、辺りも明るくなってきた。雨も小降りになったようで、音も静かになっていた。そして、どちらからともなくくっついていた体を離すと、お互いに目が合って、笑顔を交わした。すると周助の顔が近づいてきて、わたしのおでこにチュッと音を立てた。そして、「もう、リスなんか追っかけちゃダメだよ?」と言ったので、わたしは苦笑しながら頷いた。


荷物は周助がお店に預けてきてくれてて無事だった。お店の人も心配してくれてて、いろんな人に迷惑をかけてしまって申し訳なかったけど、一緒にいてくれたのが周助で本当に良かったと思った。わたしがこれからは、周助の心の支えになれるように頑張んなきゃ、そう思って、繋いでいる手に力を込めたら、周助がわたしの方を見て優しく微笑んだ。
前を見上げると、綺麗な虹。改めて、ずっと周助のそばにいようと、心に誓った。






fin

by ゆかり 2012/05/24





《つぶやきという名のあとがき》

いかがでしたでしょうか。。。
やっぱりわたしは、落ち着いてて大人風味の不二くんが好きですね。
ま、実際、部の中でもいろんなことを知ってる不二先輩って感じですしね。
いけないことをしたら、ちゃんと叱ってくれそうなところも好きです。
それでいて、ちゃんと温かい優しさも持ってて、ね。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。
陳謝。