*** 心壊(shinkai)
〜ココロコワレテモ〜
「周助?」
「?どうした?」
「今から、そっちに行ってもいい?」
「フフッ。いいよ、もちろん。」
普通の人ならほとんど気付かないくらいの少しの間。いいよ、と返事をしてくれるまでの時間というのは、わずかな周助の思考時間。わたしのことをちゃんと理解した上で受け入れてくれた時間だ、と認識する。
pm11:00。わたしは時々、堪らなく闇の中に無意識に葬られた気分になる時がある。そんな時、迷惑だと分かってて、つい周助に電話をしてしまう。でも、周助はいつも、「いいよ」と言ってくれて、夜中に訪ねたわたしを何も言わずに招き入れてくれる。申し訳ないと思いつつも、本当に有難いと思う。
わたしは、こういう時は、もう気持ち的にはいっぱいいっぱいなので、何も言わずに部屋の片隅で蹲ったままになる。そして周助は、やはり何も言わず、ただいつものように、CDをセットしてくれる。こんな時はいつもの曲、ショパンの「スケルツォ2番」だ。レコードにしないのは、CDだとリピート出来るから。わたしがしっかり落ち着くまで何度も何度も、延々とかけてくれる。
ショパンのメロディラインは、彼のどの曲でもとても魅力的だけど、この曲は特に哀愁を帯びているとわたしは思っている。だから、無性に泣きたい時は、この曲を聴きまくって、好きなだけ泣いて自分を落ち着かせるのだ。それを周助は、何も言わなくてもちゃんと分かってくれている。
膝を抱えて座っているわたしを、周助はそっと両手を握って立ち上がらせて、肩を優しく抱いてソファーへと座らせてくれる。夜中なので、ボリュームはもちろん小さめにして、スピーカーから流れてくる「スケルツォ」のメロディに、二人で並んで座って耳を傾ける。
わたしの目からは、まるで用意していたかのように、止めどなく涙が溢れ出てくる。周助は何も言わず、ただ優しく肩を抱き寄せてくれる。泣きたいだけ泣けばいい、と。強く引き寄せるでもなく、ただ肩に乗せるだけでもなく。でもわたしにはそれがこの上なく心地よかった。
理由などない、ただ訳もなく溢れ出てくる感情に任せて、わたしはただただ泣き続ける。ひょっとしたら、何かに縛り付けられた心を、周助に解きほぐしてもらいたかったのかもしれないけれど。ただ甘えたかっただけなのかもしれないけれど。それさえも分かってくれるのか、周助の、男性にしては華奢だけれど、わたしよりは大きな手が、わたしの頭を優しく撫でる。わたしはそのまま、周助の肩に頭を預ける。何とも言えない安心感が生まれてくる。それと同時に、やはり周助には、申し訳ないという気持ちが湧いてくるのだ。そして口からは「ごめんね。ごめんね。」という言葉がついて出てくる。周助は、「そんなに自分を責めないで。」と優しくも少し寂しげに囁く。ますますわたしは申し訳なくて、また謝るような言葉を連ねると、周助は、わたしの頬を伝う涙を拭いながら、
「は何も謝るようなことはしてないよ。大丈夫だよ、もう十分。だけど、もし謝ることで気が済むのなら、何度でも謝っていいから。」
優しすぎる、優しすぎるよ周助、とわたしは思いながら、心が温まっていくのを感じてくる。するとますます涙があふれてくる。でも、それと同時に、今度は「感謝」の気持ちも顕れてくる。申し訳ないのと嬉しいのとが一緒に心の中で膨らんでくる。するとわたしの口からは「ありがとう。ありがとう。」と言葉が自然に出てきた。そんなわたしを見て、周助はクスッと笑う。そうしたらわたしも何だか顔が緩んできて、同じようにクスッと笑ってしまった。するとだんだん心が解れてくる。今度は安心感と幸福感で満たされていく。すると、突然睡魔が襲ってきて、わたしは眠りに入ってしまう。周助は、そんなわたしの寝顔が見れて嬉しいよ、なんて言ってくれるけれど、ちゃんとわたしが寝付くまでいつも見守っててくれてるのをわたしは知っている。周助は、ソファで完全に寝入ってしまったわたしをベッドへと連れて行ってくれて、自分はソファで眠る。朝わたしが目覚めるといつもそういう状態になってるから。あぁ、またやってしまった、とわたしはいつも反省するのだけれど、周助は至って普通で、何とも思ってない風で、わたしがガサゴソとベッドで動いていると、その音で目覚めて、「あ、、起きた?」と言いながら起き上って、わたしのところへとやってくる。そしてベッドに腰掛けてわたしの頭をゆっくり撫でながら、「どう?良く眠れた?」と聞いてくる。わたしは、「うん。ありがとう。」と頷くと、良かった、と言って、わたしの背中をさすって立ち上がり、キッチンへと足を向ける。そして、いつものように、モーニングティを淹れてくれるのだ。
昨晩のことは、何となくは覚えているけれど、実のところ、あまりはっきりとは記憶にない。またそれはそれで周助には申し訳ないと思うのだけれど、周助は全く、本当に気にしてないみたいで、またそれについつい甘えてしまう。そういろいろ物思いに耽っていると、紅茶の優しい香りが漂ってくる。そして、周助は二つのマグカップを持ってベッドへと歩いてくる。一つをわたしへと向けてくれて、わたしはそれを受け取り周助はベッドへと腰掛ける。わたしが紅茶を口にしたところで、
「今日は、久しぶりにどこか行こうか。二人でブラブラしない?」
と周助が言ってきた。「え?でも、周助、仕事......」
とわたしが言ったら、「いいよ。僕だってたまにはリフレッシュしたいし、最近ともゆっくり出来なかったしね。二人にとって、必要不可欠の休暇、でしょ?」
そう言いながら周助は、軽い朝食の支度を始める。全く苦に思わず、逆に楽しそうにも見えるその様子を見ながら、やはりわたしは申し訳なくもしかしほんのり幸福感を感じずにはいられない。こんなに幸せでいいのか、こんなに甘えっぱなしでいいのか。そうだ、何かお返しを、と思った時に、支度をしている周助の後姿が堪らなく愛しくなって、わたしは周助の背中に後ろから抱きついた。
「どうしたの?お腹すいちゃった?」
「うううん。周助、ありがとう。大好き。」
すると、作業する手を止め、手を拭いてわたしの方へと向き直し、ギュ―っと思いっきり抱きしめてくれた。そして、おでこに目に、頬に鼻に、そして唇に...始めは優しくだったけど、だんだん激しいものになって来て、本当に吸い込まれるんじゃないかと思うくらいの熱い熱いキスの応酬。やっぱりちょっと、いやかなり我慢させちゃってたかな、とまたまた申し訳ない気持ちになって、でもその代わりの熱い思いをわたしもキスで返事をする。ふと口びるをお互いに離しそして見つめ合う。
「、愛してるよ。」
「周助。いろいろごめんね。」
また抱きしめながら、「うううん。大丈夫。むしろ頼られて嬉しいよ。さ、先にシャワー浴びておいで。顔、洗いたいでしょ。」
「うっ、そうだね。この目じゃマズイかも。」
「フフフ。朝食の準備しとくから。ゆっくり入っておいで。」
「うん。ありがとう。」
心が壊れてしまう時があっても、貴方が修復してくれる。
それに頼ってばかりじゃいけないけれど、
わたしも頑張って強くなるから。
少しずつ、少しずつ、前を向いて。
光の差し込む方へ、共に歩んで行こう。
fin
by ゆかり 2012/02/10
《つぶやきという名のあとがき》
あ〜あ、言葉、作っちゃいました〜^^;;
ホントわたし、語彙力乏しいので、
言葉、知らないんですよね〜( ̄▽ ̄;あはは〜
周助さんに、甘えたかったんです。
ただ、それだけです、ハイ。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
陳謝。
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