「また君なんだね」
***perversity
何の因果か、不二とは中学三年間、ずっと一緒だった。
元来の男勝りな性格のせいか、付かず離れず、広く浅く、純粋な友人関係を築いていた。
・ ・ ・ つもりだった。
一年生の2月。
女の子なら誰もがトキめくバレンタイン。
不二と委員会も一緒、何かのイベントの時の班も一緒なわたしは、
傍から見れば程よい距離のクラスメイトに見えるらしく、
「ねぇ、ちゃん、着いてきて。」という声掛けのいい標的になっていた。
一年生の時は6人。
二年生では14人。
いわゆる『本命』という名のつく気持ちを、
この三年間、わたしはずっと代弁し続けていた。
さすがに三年目、22人目が済んだイベントの次の日の放課後、
不二に「昨日はお疲れ様」なんて、声をかけられてしまった。
「ま、わたしなんかでみんなのお役に立てれば、と思ってね。」
「フフッ。忙しすぎて、、自分の分、し損ねてるんじゃない?」
一年生の時、隣の席になってから、わたしは不二に惹かれていた。
でも、その後。
わたしがそんな自分の淡い恋心に気付いた、ほんの一ヶ月後、親友に
「わたし、不二くんのこと、好きになっちゃった。」と宣言された。
これを、お人好し、というのかどうなのか。
自分に勝ち目がない、と一瞬思った時点で、即座にわたしは、その
わずかな気持ちを自分の中から追い出した。
もう、不二くんを好きだ、と思っていた自分を、どこか遠くへ消し去ることにした。
でも、決して嫌いになったわけじゃなかった。
まだまだ未熟だったわたしは、このあいまいな気持ちを
どこへ、どういうふうに持っていったら良いのか、
その術を全く知らなかった。
「わたし、例えば、好きになった人にその思いを告げたとして、
その後のことを考えると、どうもしっくりこなくてね。」
「うん?」
「告白したことで、かえってギクシャクするのもヤだし、かと言って、
じゃあとりあえずお付き合い、っていうのも、実はよく分らないの。」
「へえ。それで?」
不二は、聞き上手だ。
本当に、わたしの話しに興味があるのかどうかは、不二の表情からは
読み取れないけど、こちらの気持ちを引き出させる、ということに関しては、
少なくとも同級生の中では、彼の右に出るものは居ないんじゃないか、って思ってしまう。
「わたし、『付き合う』っていう言葉、好きじゃないんだ。」
「え?どうして?」
「なんか、その場限りみたいな感じもするし、かと言って
『特別』になるには、まだまだ幼すぎて早すぎるようなきもする。ましてや、
『とりあえず』なんて、なんだかおかしなきがするんだよね...」
「ふうん。なるほどね。」
「『恋人』っていうのも、まだまだどうかな、って思うし。」
「うん。」
「まだ中学生の間って、『友だちの延長』みたいな感じでいいと思うんだけど。
わたしって、ヘンかな......」
「いや。の言いたいこと、何となくだけど分かるよ。
まるっきり同じ、って訳じゃないけど、僕も似たような考えだから。」
「え?ホント?」
一瞬、信じられないような気もしたけれど、
不二の真っ直ぐな瞳を見れば、まんざらでもないのだ、というのは、はっきり分かる。
同情とか、そういうものでもない、ということ。
こんな、ちょっと人とは違う、曲がったようなずれてるような考えを、
分かってくれる人がいたなんて。
それも、あの、不二が。
そういえば、あれだけの告白を受けて、
誰の思いにも、答えてないのは、
何かこだわりがあるからなのだろうか。
それも、誰に対しても、
「ごめんね。僕には好きな人がいるんだ」というセリフ。
「不二は、誰かに告ったリはしないの?」
それを聞いた拍子に、驚いた様子が垣間見えた様だったけれど、
すぐにいつもの笑みに戻って、
「そうだね。そのうち、そういうこともあるかもしれないけど、
何だかその相手も手強そうでさ。ちょっとやそっとじゃ、動きそうにないから、
様子を見ながら持久戦で行こうかなって思ってるんだ。」
「へえ。そうなんだ。上手くいくといいね。頑張りなよね。
応援してるからさ。」
「フフッ。ありがとう。頑張ってみるよ。」
柔らかい笑みを湛えながら、でも、
何か奥深いところで揺るぎないものを感じさせるような、
そんな強い意志を含ませた不二の視線から、目が離せない。
何だろう。
「」
「な、なに?」
「僕、もうやっぱり、持久戦止めようかと思う。」
「え、そ、そっか〜。当たって砕けてみる、とか?」
「うん。そうしようかな。」
何か、ものすごく強い決意を感じる、不二の目の力。
気圧されて思わず一歩後退りする。
「。友達からでいいんだけど。」
「は、はい.........え?!」
「今までよりも、他の子よりも、ちょっとだけ仲の良い関係になってくれないかな。」
「え、あ、えっと、わ、わたし......?と?」
「うん。もちろん。」
「あ、えと、手強いって、も、もしかして、」
「そう。君のこと。のこと。」
「や、え、わ、な、名前、って、」
「あ、ごめん。名前でいきなりじゃマズイよね。それとも、
"仲の良い関係"ってのがいけなかったかな。」
噛んでばかりじゃ駄目だ。
不二も思い切って、勇気出して言ってくれたに違いない。
私も、それに応えなきゃ。
「うううん。そんなことない。凄く嬉しい!だって、わたし......」
「え?だって、なに?」
しまった。
頑張って口にした言葉に、思わず本音が混ざってしまった。
もう、取り返しがつかない。
不二は、私からの返事を待っている。
黙って、待ってくれてる。
「あの。わたし、不二のこと、す、好きでした。」
一瞬、目を見開いて、すぐに柔らかい笑顔になったかと思ったら、
「フフフ。ありがとう。らしくて嬉しいな。でも、過去形なの?」
「あ。ごめん。でも、あまりにも突然で、何て言ったらいいか......」
実際、遠くへ追いやってしまった気持ちは、案外引き戻すには時間が掛かるもので、
嬉しいんだけど、頭も追い付かないし、気持ちとしてもどう受け入れたら良いのかも分からなくなっていた。
それに、手伝ってあげた彼女たちのこともあるし。
ふと、不二の方を見れば、今まで見たこともないような、厳しい顔をしてこちらを見ている。
「、ひょっとして、告白してきた彼女たちのこと気にしてるの?」
「だって......」
「大事なのは自分の気持ち。たとえ、代弁しても、本人たちの気持ちはこちらには届いてこないよ。
僕は、気持ちを聞くのなら、本人から直接聞きたい。」
「う、うん。」
「あ、が今までしてきたことを否定してるんじゃないよ。それよりも大事なのは、
自分自身の気持ちじゃないかな。もそろそろ、自分に素直になった方がいいんじゃない?」
"自分に素直に"
なれるかな。
全く自信はないけど。でも、
彼なら
彼になら
「あの......こんなわたしだけど、仲良くしてくれる?」
「フフフ。もちろんだよ。」
フワッと学ランの香り。
いや、不二の匂い?
わたしは、黒い制服に包まれた。
「やっと、手に入れた」
「ふ、ふじ......」
「今まで通りでいいよ。何も変わらない。ちょっと仲良くなるだけ。
君は君のままでいて。そのままのが好きだから。」
「不二」
何かが外れたように、目に熱いものが溢れてくる。
でも、今は、不二の制服の中だ。汚すわけにはいかない。
でも、、、、、、どうしよう......涙が止まらない。
すると、ますます強い力で抱き締められた。
気にしないでいいってこと?
わたしの気持ち、全部分かってくれるの?
ごめん。明日、洗って返すから。
一日遅れのバレンタイン。
わたしたちの恋は、
まだ始まったばかり。
今から、これから。
fin
by ゆかり 2010/04/14
「perversity」 ・・・ 天の邪鬼
《つぶやきという名のあとがき》
一週間前に、別のメモに書いていたものを、
加筆修正しながら仕上げてみました。
しっかし、このヒロイン、かなりわたしの中学時代に近いです。ハイ。
かわいくね〜〜〜っ(爆)。思いっきり天の邪鬼でした。
ま、今もそうかも、だけど...プッ。
はぁ...不二くんに癒してもらいたい...
ブツブツ...
って、全然後書きじゃないじゃん!>おバカ
こんなヤツが書いててすみません<(_ _)>
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
陳謝。