「っちー!おはよっス!!」
そう言って駆け寄ってきた黄瀬くんのハイテンションにうんざりした。
「ウザい。」
「ええーっ!ヒドいっス!!」
「朝っぱらから相変わらず元気だね、黄瀬くんは。」
「そう言うっちは元気じゃないんスか?」
元気じゃないというわけではないけど、気分が優れないのは確かだ。そんな時の黄瀬くんはうるさいのを通り越して鬱陶しい。
「そんな事より聞いてくださいっス。」
私の体調は、黄瀬くんの中では"そんな事"らしい。いちいちムカつくな。
「昨日、黒子っちからメールが来たっス!」
嬉々とした表情で話す黄瀬くんはまるで、恋い焦がれた先輩からメールが届いた女の子みたいだった。お前は乙女か!
「ふーん。」
「え、ちょっと!反応薄いっスよ!!」
「…………」
「無視っスか!?そりゃ、っちは黒子っちの彼女だからメールくらい沢山来るかもっスけど……」
「来ないの。」
「え?」
「だから……黒子くんからメールが返って来ないの!!」
それが私の鬱々とした気分の原因だった。かれこれもう何日になるだろうか。その前の日の晩は遅くまでメールのやり取りをしていた。内容は今度のテストが嫌だとか、部活は大変だけど楽しいだとか、駅前の喫茶店のパフェが新しくなったとかそんなくだらない事だったと思う。いつもと変わらないやり取りだったのに、最後にメールを送ったきり返事がぱったりと途絶えた。その晩は、『黒子くんも疲れてるし寝ちゃったのかな?』と思い気にはしなかったけど、次の日もまた次の日も返事が返ってくる事はなかった。
嫌われたのかな?変な事でも言っちゃったのかな?そんな風に悶々と考えているうちに数日が経ってしまった。
「黒子くんに嫌われちゃったんだー!どうしよう。」
「っち!?」
しかも、だ。よりにもよって黄瀬くんは黒子くんからメールが来ただなんて言った。決定打だ。もう終わった。
「振られるんだ。今まで彼氏とかいた事ないし、浮かれてた私にとうとう愛想尽かしちゃったんだぁ!!」
「あー元気出してくださいっス。黒子っちはそんな冷たくないっスよ。」
「で、でも……。」
黄瀬くんは、半分笑いを堪えているような顔をしていた。自分はメール貰えたからって……ムカつく!最大のライバルが男とかツライ。
黄瀬くんの上機嫌とは裏腹に私は今日も一日、浮かない気分のまま過ごす羽目になった。結局届いたメールは迷惑メールとマジバのクーポンだけだ。今週はシェイクが100円だって……そう言えば黒子くん、バニラシェイク好きだったよね。あー泣きたい。
「何でメール返してくれなかったんだろう?」
校門を抜けながら零れた言葉はしかし、独り言にはならなかった。
「返してくれなかったのはさんの方じゃないんですか?」
後ろから声がして驚いた。あ、この感じ……。
「く、黒子くん!?ど、どうして!?」
そこには居るはずのない黒子くんが居た。
「黄瀬くんからメールが届いたんです。」
黒子くんは携帯を開いて、私に画面を向けた。そこには『っちがメール返ってこないって泣いてたっスよー!黒子っち冷たいっス!!』と、あの能天気な顔が浮かんできそうな文章が表示されていた。
「何か勘違いしているみたいですが、僕はさんの事を嫌いになんてなってませんからね。」
「だって、メール……。」
「僕はちゃんと返しましたよ?さんの方こそ。」
「え、だって!」
私は急いで、自分の携帯の送信ボックスを開いた。
黒子くん宛ては数日まえで止まったままだ。だけど……
「あれ?」
「ほら。言ったでしょう?」
「あ、うん。」
確かに送ったと思っていたメールは、未送信下書きボックスに保存されたままだった。
「あ……。」
「君の事だからそんな事だろうとは思いました。でも、それなら黄瀬くんじゃなくて僕に直接言ってくれればよかったのに。」
「だ、だって……本当に嫌われたかと思ったんだもん!」
「僕が君を嫌いになるなんて事はありません。もう少し信用してくれませんか?」
黒子くんはそう言って、私の頭の上に手のひらをぽんと乗せた。
「勝手に不安になって離れていくなんてやめてください。僕は君が大好きなんですから。」
「あ、あ……私も黒子くんが大好きです。」
「知ってます。」
こういう事さらっと言っちゃう黒子くんはずるいと思う。
その後、黄瀬くんからは『誤解が解けてよかったっスね。』と相変わらず能天気な顔が浮かんできそうな絵文字付のメールが届いた。このメールは故意に無視しました。
ヒロインちゃんは海常生設定です。
up date 2012/07/06
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「TOMYCHUN」の”のん子”さまより、頂きました。
てか、似たようなことがわたしたちの間に起こって。。。それをお話にしてくださったんです。
大好きな黒子くんで。。。♪ ありがとうございます。とってもステキなお話にしてくださいました^^
by ゆかり
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