決して嫌いになったわけじゃない。
ほんの"イタズラ心"、という感じだったのだけど
*** mischief
不二くんの部活がお休みの日は、暗黙の了解ってやつで、いつも自動的に一緒に下校する。当然、どちらか先にHRの終わった方が待っていて、相手のHRが終わったのを見計らって待ってた方が迎えに行く、という感じだ。
けれども、その日に限って、わたしは何となく気が向かなかった。本当に気まぐれ以外の何ものでもない。でも実は、それこそ何となくだけど、そう、本当にただ"何となく"だったのだけど。ひょっとしたら、自分の中でどこか不二くんを"試したい"ような気持があったのかもしれない。あの「不二周助」に挑むなんて、わたしも凄い度胸だとは思うけれど。あまりにも優しすぎて、理解がありすぎて、っていうのはそれこそもの凄く贅沢な悩みなのだろうけれど、やっぱりそれはただのわたしの"甘え"だとは思うけれど、悩む不二くんを一度でいいから見てみたかったのかもしれない。
わたしは、昼休みに不二くんにメールをした。どうもやっぱり直接は言いにくくて。というか、顔を合わせにくかったから。
sub : 今日の帰り
本文 : お母さんにおつかいを頼まれちゃったので、
申し訳ないのだけど一緒に帰れません。
ごめんなさい。
ということで、わたしは一人で先に帰った。
帰ったところで、何も特にすることもなく、実際そのお母さんは既に買い物に出ちゃってて居なかったし、仕方なく近くの本屋さんに行くことにした。ちょっとだけブラブラしてすぐに帰ったのだけど。
そして次の日。朝、不二くんに会ったけど、特に不二くんからも何も問いかけられることもなく、普通にいつも通り挨拶を交わした。
さらにその次の時、一緒に帰る日は、ちゃんといつも通り待ち合わせて一緒に下校した。その次も。だから、そんなに怪しまれるほどじゃないだろうと思っていた。
なので、その次、一度一緒に帰るのを断ってからその後一緒に帰って三度目の時。その日もやはり何となく距離を置きたくてわたしは断りのメールをした。不二くんと帰るのが嫌になったわけではない。本当にただ単にわたしの気まぐれ。その時も不二くんは了解してくれた。特に今回は理由は書かなかったのだけど。そうしてわたしはまた一人で帰路に着く。ただ今回は、理科のレポート提出の課題もあったので、時間が取れてちょうど良かったというか、かえって助かった気もしたりした。
さて。またそれからは、普通に何度か不二くんと一緒に帰宅したのだけど、不二くんも微妙に察してきたのか、こちらを窺ってるようにも見える時もあった。でも、わたしは出来るだけ平静を装って振る舞っていた。だって、特に悪いことをしている訳じゃなかったし、そんなに後ろめたさも感じていなかった。でも、後から気付いたのだけど、実は大きな落とし穴があったのだった。
また何度か不二くんと一緒に帰っていたある日。その日は始めにわたしが試み始めてから三度目の日だった。またわたしは不二くんに一人で帰るからという内容のメールをした。そうしたら、さすがに今度は呼び出されてしまった。しかもメールで。
sub : RE :今日の帰りの件
本文 : ちょっと話したいことがあるのだけど、
昼休み、話せるかな。
屋上で待ってる。
あぁ、さすが洞察力に優れた人だ。わたしの魂胆なんて見え見えだったのかもしれない。でも、決して悪気があってしてた訳じゃないし、ましてや毎回断ってた訳じゃなかったのだから、そんなには言われないだろう、と思い、わたしは昼食を済ませてから屋上へ向かった。
不二くんは既に来ていた。
屋上のタンクの壁に寄り掛かって、彼にしては珍しく両ポケットに手を入れて立ち尽くしていた。わたしに気付くと、ふと俯いて、少し寂しそうな表情を浮かべているように見えた。
「ごめん、不二くん。お待たせしました。」
「うううん。大丈夫。そんなに待ってないよ。」
「ありがとう。ところで、話って何かな。」
「うん。僕の勘違いだといいのだけど、って、この頃っていうか、1、2か月前くらいから、僕のこと避けてない?」
「え?そんなことないよ。」
「そのくらい前からだと思うんだけど、一緒に帰る回数、少し減ったよね。」
あぁ、やっぱり気付いてたんだ、と思ったけど、本当に特に理由もなかったので、そのまま黙っていたら、
「、何か僕に隠してない?」
さすがにちょっと言葉に詰まってしまった。悪いことをしてるわけじゃない、と思ってはいたけれど、実際、不二くんに黙っていた、ということは、騙していたことになるのだろうか、などと、いろんなことが頭の中を駆け巡る。
「実は、初めてから一緒に帰れないことをメールで見た日、確かお母さんからおつかいを頼まれたって言うことだったと思ったけど、あの日、帰りにのお母さんと出会って、挨拶したんだよね。キミのお母さんは特に何も感じてらっしゃらなかったけど。」
わたしは思わず、はっ、となって、口を手で塞いでしまった。
「僕も、何か他の言いにくい理由があって、一緒に帰れなかったのかな、って思うことにしたんだ。それから2回目の時。理由を言われなかったから僕も特には聞かなかったんだけど、確かにあの日は理科の課題があったから、僕も結構大変な思いしたし、もそうだったのかなって思ってた。そして今日。本当は理由を聞きたいところなんだけど、僕が聞いても何も出来ないかもしれないし、今までも言ってもらえなかったし、また違うことを言われても僕としてもあまりいい気はしないしね。」
わたしは、ひょっとして、取り返しのつかないことをしてしまったのかと思い、胸の奥がぎゅっと詰まった。
「不二くん...」
「僕はの良き理解者でありたいし、信頼できる立場でありたいって思ってるよ。どんなことでも聞いてあげたいって思ってる。でも、今のままじゃ、そうは出来ないかもしれない。」
「......」
「、僕じゃ、頼りにならないかな...」
「え?そんな...うううん、そんなことないよ。ごめんなさい。本当にわたしのただの気まぐれで...」
「うん。そうなのかもしれない。ごめん。僕もちょっとたくさんいろいろ考えすぎて疲れちゃって。そこで提案なんだけど、ちょっと距離を置いてみないかな?」
「え?距離、って...不二くん...」
「別れよう、とか、そういうことじゃなくて、お互いにちょっとだけもう一度冷静になって、お互いのこと考えてみたらどうかな、って思ってね。」
わたしは、何て言ったら一番適切なのか、全く言葉が見つからなかった。わたしのほんの些細な悪戯心のせいで、こんなことになってしまうなんて...本当に思ってもみなかった。ふと、頬に何かが触れた。不二くんの指だった。わたしの涙を拭ってくれていた。
「ごめん。泣かせちゃうつもりはなかったんだけど。でも、僕も僕なりにいろいろ悩んだんだ。が僕のこと嫌いになっちゃったのかな、とか、僕たちは離ればなれになっちゃうのかな、とかね。」
「不二くん...」
わたしは、不二くんの手を掴んで、首をブンブン振った。違う。不二くんが謝ることじゃない。わたしが勝手にしたことなのに。わたしのせいで、不二くんをこんなに苦しめることになるなんて。本当は泣きたいのは不二くんの方かもしれないのに。もうわたしは、何をどうしたらいいのか、全く考えられなくなっていた。
すると、不二くんの手を掴んでいたわたしの手はゆっくり下ろされて、わたしの両肩に不二くんの手が置かれた。
「キミの気まぐれだったのかもしれないけれど、僕もちょっと舞い上がってたところもあったから、いい機会なのかもしれないよ。きっとすぐにまた一緒に並んで歩ける日が来ると思う。だから、ちょっとだけ、そうだな、今日が11日だから、来月まで三週間、一緒に帰るの我慢しよう。」
「ふ、不二くん...」
「大丈夫だよ。ほら、距離を置いたら、思いが募るって言うじゃない?僕はのこと思い続ける自信あるよ。クラスは違うけど学校は一緒なんだから会おうと思えば会えるんだし。何か話したかったらメールでもしてよ。待ってるから。」
そして、わたしの手は不二くんの手と繋がれて、一緒に屋上から階段を下りた。
あれから、もうすぐ三週間。
不二くんの言ってたように、一緒に帰れなかった間、わたしは改めて不二くんのことをとっても好きなんだということを再認識させられた。初めから正直に話してこうしていれば良かったのかもしれない。けれど、あの時は、自分の感情が何なのかが全く分かっていなかった。だから、あんな変な行動に出てしまったのだ。この三週間、不二くんにたくさんメールもした。なぜ一緒に帰れなかったのか、そのことも正直に話した。というか、不二くんにメールをしながら、どうして一緒に帰りたくなかったのかが分かってきたのだ。近づきすぎていたのかもしれない。"恋は盲目"というけれど、それは周りが見えなくなることの例えだけれど、あまりにも近づきすぎてると、周りどころか相手の心もそして自分の心でさえも見えなくなることがあるのかもしれない。そして、その中に浸かり過ぎてると、その環境に慣れっこになってしまって、当たり前になってしまって、相手への思いやりとか気遣いとか、大事なことさえも見失ってしまうのかもしれない。相手が不二くんで良かった。不二くんのお陰で気付くことが出来た。不二くんがこういう機会を与えてくれなかったら、わたしはもっともっと不二くんを傷つけていたかもしれない。そうしたらもう助けてもらえてなかったかもしれない。
約束の日。わたしは、不二くんに、感謝の気持ちと一緒に、もう一つ、プレゼントしたい言葉があった。
経ってみればあっという間の三週間。また、以前のように、今日はわたしのクラスの方が早かったので、不二くんのクラスが終わるのを、自分の教室で待っていた。すると、不二くんがわたしの教室に現れた。
「。帰ろうか。」
「うん。周助くん。」
不二くんが、目を見開いてわたしを見た。そして、最高の笑顔になってわたしの手を取り、靴箱へと向かって歩いた。
fin
by ゆかり 2012/02/11
「mischief」・・・いたずら、ちゃめっ気
《つぶやきという名のあとがき》
ちょっと重たい内容でしたけれど、
お読み下さりありがとうございます。
わたし自身、途中で涙が出そうになってしまいました。
書いてて本当に苦しい気持ちになったのは初めてでしたねぇ。
でも、わたし自身を反映しているような内容なので、
とても共感できました^^;;
かなりきつかったですけど。。。
こういう話も書けるようになってよかったです。
って、いかがでしたでしょうか。
表現とか、おかしなところがありましたら、
どうぞ、ご指導ご鞭撻のほどを!!!!!
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
陳謝。
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