「おーい、真ちゃーん。ホント、どこいったんだアイツ。」
高尾くんの声がする。
ちょっとした声なんかかき消されてしまうほどの土砂降りの中、
わたしも同じ人物を探していた。
*** 言わなくても
雨の音に混ざって、話し声が聞こえてきた。落ち着きのある少し低めの声。
「・・・・・相変わらずだな、青峰。」
間違いない、真太郎だ。
対誠凛戦。最後の最後でシュートを決められなかった惜敗のあと、最後の挨拶もそこそこに真太郎は会場から姿を消してしまった。
今までずっと彼を見てきたけれど、そんな行動をとる真太郎は初めてだった。何しろ、負ける、ということ自体が今までになかった。おそらく彼のこれまでのバスケット経験の中で初めての敗北。彼自身も、そのどうしようもない気持ちを、どこにぶつけていいのか、分からないのかもしれない。
電話は終わったようで、真太郎はわたしのいる位置からだと、ちょうど木の陰に隠れて見えにくかったけれど、土砂降りの中、傘もささずにびしょ濡れになりながら、ただただ雨の落ちてくる方向を見ながら立ち尽くしていた。
まだ雨だと肌寒い季節。本当はすぐにでも駆けつけて傘をさしてあげたかった。けれど......まだ、今行ったところで、断られるのは目に見えている。彼は自分のそういう姿を人に見られることを人一倍嫌がる方だ。絶対に甘えた態度を他人には見せない。そういう自分が許せないからだ。例え幼馴染のわたしでも。いや、逆に、本当は誰よりも弱い部分を持っている、そんな彼を一番よく知っているわたしだからこそ、余計に見られたくないだろう。
後方を振り向けば、観戦を終えた人々、後片付けを終え、着替えも済ませた選手たち、皆ぞろぞろと会場を後にしているところだった。突然の雨に、傘を持っていない人も多く、雨宿りをしている人もあちこちに見かける。朝、あんなに天気良かったけど、天気予報を信じて、折りたたみ持って来といて良かった。にしても今日は時間ギリギリで来てしまったから、その辺にあった傘を掴んできたので、ちょっとハデ目のオバサン傘だった。ちょっぴり恥ずかしい気もしたけれど、でもここは会場裏。帰路につく人々からはかなり離れていたので、そんなに目立ってはいなかった。
にしても......そろそろ、秀徳の人たちも帰り始めるんじゃ...それに、真太郎も、荷物あるだろうし。そう思って、一旦会場の様子を見に行ってみようかと後ずさりしようとしたとき、雨音に混ざって、かすかに、「ふぅー」っと息を漏らす声が聞こえてきた。あぁ、真太郎は、まだ、心の中で一人、戦ってる最中なんだ。そう思うと、離れられなくなってしまった。嫌がられてもいい、そばにいてあげたい、お節介なのは分かっている、でも、今は......わたしは、彼にゆっくり近づいていって、そっと彼の頭の上に、傘をさしかけた。
真太郎は、振り向かなかった。
気がつかないはずはない。それに......こんなところまで彼の様子を見に来て、何も言わず傘をさしかける人物なんて、わたしくらいしかいないだろう。それもきっと彼は分かっている。分かっていて敢えて何も言わない。かえって、その様子が、今日受けた彼の傷の深さを物語っているように感じた。
「。お前のことだ。何も言わなくても全て分かっているのだろう。」
しばらくして真太郎は、ゆっくりと、そうつぶやいた。
わたしは一瞬、涙が出そうになった。元々誰よりもプライドの高い男だ。こんな本音を漏らすのも珍しすぎるくらい。今は、相当弱っているのだろう。けれど。きっと真太郎は自分に負けない。そして、次こそは......
「さぁ、どうかしら。」
敢えてわたしは、そう言った。
「フッ。お前らしいのだよ。」
真太郎は、そう言いながら、寄りかかっていた壁から体を起こし、向きを変えて会場の方へと歩き始めた。わたしも傘をさしかけながら、後を追いかけた。すると、「もう大丈夫だ」そう言って、傘の柄をわたしの方へと押し付け、足早に歩いて仲間のもとへと進んでいった。
fin
by ゆかり 2012/07/27
《つぶやきという名のあとがき》
緑間くん、第2弾です。
ちょっと、緑間くんの幼馴染って、どんなだろう、と考えていたら、
こんな感じになってしまいました。
今回は、ヒロインの名前、入れてみましたよ、ハイ>爆
んー、一応、アニメでも終わったところなので、特に書かなかったのですが、
これって、ネタバレ?>汗々&苦笑
やっぱ、あの辺のシーンは、緑間くんの中ではとても印象に残ってるので、
ちょっと絡ませてみたんですけど、いかがでしたでしょうか。。。
緑間くんの彼女になれる女の子って、かなりドーンと構えてる子でないと、
無理かなぁ、と。少々じゃ動じないような。。。
でないと、緑間くんを支えられないようにも思ったりしました。
うん。緑間くんは、強がってる分、どこか無理してるところが
ありそうなので。あ、でも、その辺を、占いで中和させているのかも?!>笑
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
陳謝。
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