旋律に乗せた思いが切なく響く...


どうしてこんなに胸を締め付けるのだろう...








*** Melody








今日で三回目。学校の音楽室のピアノは、音がとってもまろやかで綺麗に響く。さすが私立だけあって、調律等手入れも行き届いている。もうすぐ発表会なので、家のアップライトじゃ物足りないから、音楽の先生にお願いして、先週から練習に使わせてもらっている。

一人で弾く方の曲はいいのだけれど、問題は連弾の方。曲はドヴォルザークのスラブ舞曲作品72の2ホ短調。とっても好きなんだけど、なかなか思うように弾けない。途中のスタッカートのところがどうしても上手くいかない。それから、自宅のピアノじゃ、なかなか思うような音にならないから、こうして時々学校のピアノを使わせてもらってるのだ。

そうこうするうちに下校時間が近づいてきた。もう一回だけ弾いて終わりにしよう、と楽譜の最初のページへと戻したら、

「少しリズムがズレているのだよ。」

という声。へ?と思いながらも、この話し方は、と思ってこちらへ近づいてくる人物へと目をやると、メガネに指を当てて、顰めたような顔をした緑間くんだった。

「まったく。何度やったら出来るようになるのか...」
「え?聞いてたの?」
「時々、部活の帰りに聞いていた、というより聞こえてきたのだよ。」

ふぅ、と溜め息をつきながら、長身のクラスメイトは、ゆっくり自分の指に巻いている包帯を外し始めた。確かいつも巻いているものだと思ってたけど、外してまで何をしようとしているのか。というか、体育館とは反対の位置にある一番遠い三階の音楽室まで、一体何をしに来たのだろうか。わたしの頭の中は疑問符でいっぱいに埋め尽くされていた。

「お前はメロディだったな。俺が下のパートを弾く。」

そう言いながら、緑間くんは近くの折りたたみ椅子を持ってきて、わたしの左隣に座った。

「え?何なに?どういう―――――」
「いいから。練習に付き合ってやると言っているのだよ。」
「はぁ......」

訳がわからないわたし。緑間くんってピアノ弾けたっけ。バスケは相当なシューターって聞いたけど、ピアノ弾くなんて初耳だ。ビミョーにイライラオーラを発している彼の横で、わたしはミョーな緊張感を覚えながら、椅子に座り直し、手を構えた。

「では行くぞ。ワン、ツー、スリー...」

わたしが発表会で一緒に連弾する相手というのは、二つ上で、同じ秀徳高校の女の先輩だった。音大でもいけるんじゃないかっていうくらい、とっても上手いのだけど、その先輩は趣味でやってるそうで、今回の発表会も、受験勉強の息抜きで出るって聞いていた。その先輩もすごい、って思ったけど、今、となりで弾いてる緑間くんも、負けず劣らずすごい、って思った。初めて弾く曲ではないのだろうか。にしても、突然座っていきなりこんなに弾けちゃうって一体どういう人なんだろう。

男性の弾くピアノって、安定感があって結構好きなのだけど、緑間くんのピアノも、初めて聞いたけどとても落ち着いていてゆったりした響きだ。この哀愁を帯びた曲がそうさせているのかもしれないけれど。にしても、緑間くんがこんなにピアノ上手だとは知らなかった。

緑間くんの弾くピアノは、大胆であり且つ繊細、そして丁寧というよりは正確、計算しつくされたような彼らしい頭脳的な弾き方だ。ドヴォルザーク、というよりは、彼なら、ベートーヴェンとかバッハとか、もしくはもっと現代っぽい感じのスクリアビンとか、そういうのも合いそう......

「あ、ここ、マズイな。もう一度、4小節前からやってみろ。」

しまった。ちょっと緑間くんのことに意識が飛んでて、ミスってしまった。というより、一番間違えやすいところだった。ここは、一人で弾いてても、意識してないと間違えてしまうところ。ぅうう。緑間先生、厳しーっ。

「よし。もう一度少し前のこのフレーズからいってみる。」

結局、下校時刻をとうに過ぎてしまい、かれこれあれから一時間近く弾いてて、当直の先生に、何してる、早く帰れ、と怒られる始末。でも、お蔭で、よくミスってたところも少しずつ自信が持てるようになってきていた。

「ごめんね、緑間くん。こんなに遅くまで付き合わせてしまって。」
「謝ることはない。俺が勝手に来たのだから。」

そういう彼の表情は、全く伺えないけれど、淡々とした物言いの中にも、どことなく彼らしいこちらへの気遣いが感じ取れたような気がした。何だかとっても得した気分。いつもあまりこういうことには関わらない感じの人だし、自分の感情も見せるような人じゃないと思ってたけど、意外な一面を見れたような気がして、わたしは一人、こっそり微笑んだ。

緑間くんは、自分の指に器用に包帯を巻き、それから丁寧にピアノの蓋を閉め、きちんとカバーもかけてくれた。そして、自分のカバンを持ちながら、

「行くぞ。早くしろ。」

というので、わたしは慌てて楽譜を直していると、思わず手が滑って楽譜をばらまいてしまった。
「あ......」
「何をやっているのだよ。あー、仕方ない。」

いかにもめんどくさそうな言い方だったけれど、一緒にしゃがんで、楽譜を丁寧に集めて、綺麗に整えてくれた。

「いろいろ、ごめんね。ありがとう。」
「いや。確か、今日のラッキーアイテムは”楽譜”だったしな。」
「え?」
「いや、こっちのことだ。」

またメガネに指を当てて、そっぽを向いてしまったけど、何だかビミョーに照れくさそうな感じに見えたのは、気のせいじゃなかったように思えた。




fin

by ゆかり 2012/07/20





《つぶやきという名のあとがき》

えっと。。。勝手に秀徳を私立にしてしまったけど。。。私立でしたよね。。。?!
んー、本当は、最後の決めゼリフ、違うのを考えてたのですが、
何か書いてて、進みそうになくて、ここで終わりにしちゃいました。。。>汗々
初緑間くんでしたが、書いてる分にはとっても面白かったです。
てか、ちょっとカッコよすぎましたか?????
もっとヘタレでもいいような気も。。。
すみません。。。今のわたしの力量では、ここまでです。。。>泣
精進させていただきます!はい。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。
陳謝。