彼の気持ちが、分かるような
分からないような......
わたしの心はいつも、その辺を行ったり来たりしていた......
*** Be diffident
なぜかわたしは、バスケではキセキと呼ばれ、雑誌ではモデルをやっている黄瀬涼太の彼女なんかをしていたりする。どうしてなのか、未だに分からない。もちろん、彼のことは好きだし、彼もわたしのことを思ってくれてるのは分かるのだけれど......だって、どう考えても、釣り合わない。こんな、平々凡々とした、何の長所もない、顔も頭も容姿も、ごくごく普通のわたしが黄瀬くんの彼女なんて。もうすぐ付き合い始めて一年近くなるのに、未だに実感がわかない、というか、信じられなかった。
なんてことを友達に相談しても、「何なにィ〜?それって、未だにピュアで初々しいってことじゃない?黄瀬くん、のこと、とっても大事にしてくれてるんだー。、シアワセじゃん!」とか言われてしまう始末。傍目にはそう見えるのか。はぁ。わたしの悩みなんて、これじゃ何の解決にもならない。”自信”なんて、あるわけがない。今までだって、出来るだけ目立つことは避けてきた。クラスの委員だって、図書委員とか、ただ座ってればいいか本を整理してればいいくらいの地味な仕事しか引き受けたことはないし。なわたしが、どうしてあんな、それこそただ座ってても目立っちゃうようなヤツの彼女なのか。まぁそりゃ、本人に聞けばいい話なんだろうけど、聞いたところで返ってくる答えも分かるような気もするし。そんなこんなで、わたしはいつも悶々としていた。
「ちゃーん!元気?」
いつもの能天気な彼氏がやってきた。そして、わたしの顔を覗き込むなり、
「ん?何か、元気ないッスねー。」
いや、だから、アンタのその、どこから湧き出てくるのか分からない、やたらと気持ち悪いくらいの元気のせいで、逆に余計にズーンとキちゃうんだってば。と言ったところで彼には何の意味もなさないだろうから、わたしは黙ってため息だけこぼした。
「どしたんッスか?」
「んー、ごめん。何か、話しだしたら長くなりそうだから、帰りにでも話す。また部活、遅くなるんでしょ?図書室で待ってるから。」
「オッケ。りょーかいっ。んじゃ、放課後ね。」
っと、言いながら、右手で敬礼なんかしちゃって、ハートでも出てきそうなウインクをして、黄瀬くんは去っていった。いやホント、だから、わたしと彼とじゃ、あまりにも資質が違いすぎるんだって。後ろ姿すらキラキラオーラを出しながら去っていく彼を見届けながら、わたしは肩をガクッと落としながら、再び溜め息を吐いた。
自分の部活は今日は休みで。ということで、彼を待っている間に図書室で宿題を済ませ、下校時刻もやってきたことだし、そろそろ行くか、と、わたしは机の上を片付けて、体育館へと足を向けた。ダム、ダム、と体育館にバスケのドリブルの音が響く。そしてバッシュのスキール音。わたしはバスケ部には所属したことはなかったけれど、これらの音がとっても好きだった。そして、気付かれないように、そっと体育館の中の様子を伺ってみる。綺麗な金色の髪を靡かせ、真剣な目でボールと相手を見据えて走り回る、一際目立った黄瀬くんを目で追う。やっぱりプレーをしている彼は最高にカッコイイ。改めて惚れ直してしまう瞬間だ。そして集合の声。そろそろ終わりみたいだ、とわたしは確認をして、体育館と校門の間辺りで彼を待つことにした。すると、10分くらいして、黄瀬くんが、ごめん、お待たせ、と言って、いつものように爽やかにやってきた。
「お疲れ様。今日も楽しそうにプレーしてたね。」
「え?見てたんッスか?中に入ってくれば良かったのに。」
「そんな。練習の邪魔になるようなことは出来ないよ。」
「いいんっすよ、俺の彼女なんだし。ファンの子なんて、いつも中で見てるけど?」
「え?そ、そうなんだ......」
ファンの子、かぁ。いや、だから、余計に入りにくいんだけど。ファンの子は堂々と入って、彼女のわたしはこっそり見てるだけ。普通は逆なのかもしれないけれど、わたしはどうしてもそういうことは簡単には出来そうになかった。
何となく言葉を失ってしまい、黙って俯いていると、頭の上に大きな手の感触。
「ま、そんなちゃんだから、俺、好きなんだけどね。」
黄瀬くんはそう言って、わたしの頭を優しくひと撫でして、わたしの肩をポンポンと叩いた。そう。黄瀬くんはいつも、そうやってストレートに気持ちを表現してくれる。裏表のない、真っ直ぐなそのままの自分の気持ち。彷徨ってるのはわたしの方なのか。いや、迷ってなんかいない。わたしだって、ファンの子になんか負けないくらい、黄瀬くんのことを......
「ちゃん、何かあった?」
「へ?いや、、、あ、ごめん。」
「何かあったら、隠さずに言ってよ?例えば、ファンの子に意地悪されたとか......」
「あ、うううん、大丈夫。それはない。うん。心配しないで。逆に、そういうことがあったら、ちゃんと話すから。」
「そう?うん、分かった。」
そっか。黄瀬くん、自分の立場とか、全然分からない人じゃなかった。ちゃんとわたしのことも気遣ってくれてる。そうだった。彼はそういう人だ。おちゃらけてるように見えるけど、ちゃんと彼氏として守ってくれる。そっか。きちんと彼のことを見ていれば分かることなんだ。余計な心配だったのかも。って、いや、そもそも、わたし、何が不安だったんだっけ。
「そう言えばちゃん、話って...」
「あ、ごめん。いろいろ考えてたら、どうでも良くなっちゃったー。」
「え?何なんすか、それ。」
「あはは。いやー、ごめんごめん。」
ちょっとだけ黄瀬くんの真似をして、、、って、模倣は彼のお箱だったっけ。なんてことが頭を過ぎりながら、わたしは彼みたく、舌をベーっとちょっぴり可愛げに出してみた。すると、どさっ、と音がしたかと思ったら、黄瀬くんの足元には荷物が落ちていて......という情景が視界の中に入ってきた瞬間、わたしの目の前は真っ暗になった。
「き、黄瀬くん!?」
彼に抱きしめられたわたしは、彼の胸元でもごもご言いながら、そのまま何もできなくなった。
「ごめん。ちゃん。」
頭上から、少し弱々しげな彼の声が聞こえてきたので、わたしはゆっくり、彼の顔が見えるように自分の顔を上へと向けた。
「黄瀬くん?」
「俺、いつも気にはしてたんだけど、君のこと、不安にさせてたみたいで......」
「え、いや......」
「俺の気持ちが足んなかったかとか、伝え方がまずかったかとか、、、俺、、、」
「いや、黄瀬くん、大丈夫。黄瀬くんは、いつも一生懸命だったよ?」
「ちゃん......」
「ごめん。わたしが勝手に自信がなくなってただけだから......」
そう。彼は何も悪くない。わたしに問題があるだけなのだから。だって、貴方にとっては、わたしはあまりにも......
「俺は、そのままのちゃんが好きだよ?」
そう言って黄瀬くんは、わたしのおでこにキスをした。彼のキスは優しい。無意識に熱いものが込み上げてくるのがわかる......
「自信がないのは、俺の方。」
「え?」
「いや、もちろん、君に限ってだけどね。」
彼の、わたしを抱きしめる腕に、少し力が込められた気がした。
「もっと、俺だけを見てよ。」
「黄瀬くん......」
「もっと、俺にちゃんの気持ち、預けて?もっともっと俺のこと、信じて欲しい。」
うん、というわたしの言葉は、重なった口びるの中へと消えていった。
fin
by ゆかり 2012/08/06
《つぶやきという名のあとがき》
黄瀬夢、第2弾です。
あーあ。やっちまいました。。。もう書かない、って言ってたのに。。。>苦笑
いやね、大好きな夢友先輩とのやり取り(?)の中で、
ちょっと、今のわたしにとって、刺激的なことがありまして。。。
”黄瀬くんを彼氏にはどうか”という。。。
”ゆかりさんはダメですか?”と問われた時に、
あれ?いや、実際、案外、そうでもないかも、と頭を過ぎったんですよ。
そしたら、こんなお話が出来てしまいました。はい。
なんて単純なわたし。。。。。>汗
意外と、一番わたしに合ってるのは、彼かも、なんて思ってしまった。。。>汗々
黄瀬くんファンの皆様、申し訳ありません。。。>低頭
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
陳謝。
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