わたしは、アイツが苦手だ。
どうしてかっていうと、
だって、それは......
*** GEMINI'S
残念ながら、わたしの彼への第一印象は、”軽い”。だって、モデルだか何だか知らないけれど、いつも彼の周りには女の子がいっぱい。機会があればサインとかしちゃってるし、わたしは、一体何様よ、と思いながら眺めていた。
何の因果か、黄瀬とは、生年月日、血液型が全く同じという、信じられない境遇にわたしはいた。あの黄瀬のファンの子たちにしてみれば、これってある意味ちょっと羨ましかったりするのかもしれないけれど、わたしにとっては迷惑この上ないことの他に何もなかった。
なのに、か、だから、なのか、彼とはよく遭遇することが多かった。この前も、とある雑貨屋さんで、すっごく可愛いストラップを見つけて、ぅわぁ、よしっ、絶対これ、と思ってそれを取ろうとしたら、横からヌッと伸びてきた手と重なってしまった。あ、と思い、譲ろうと思ってその手の主を見れば...何と、クラスメイトの黄瀬。
「あ、ちゃんじゃないッスか。奇遇ッスね。ちゃんもこれ、可愛いって思ったっしょ。いいッスよ。どうぞ。あ、それとも、お揃いにしちゃうッスか?」
だ、だめだーっ。やっぱコイツ、軽い...どうしても受け付けられない、と思ったわたしは、どうでもよくなって、
「あ、いや、これ、この前友達がいいね、って言ってただけだから。」
と、テキトーなことを言って、そのまま去っていった。どうも彼が出てくると、調子が狂う。何となく思うように行かない。なのに......
先日も、購買のパンを買おうと思って手を出したら、また黄瀬と一緒になっちゃうし。「気が合うっスねー」なんて言われ、ゲッ、と思ったわたしは、そのままそのパンを黄瀬に押し付けて走り去った。この前なんか、授業中、先生の板書の字が間違ってたから、それを言おうと思って「先生!」って言ったら、黄瀬とハモっちゃうし。しかもその度に、あの、笑顔をよこす。”営業スマイル”ってやつじゃん!そんなのに騙されるかーっ。わたしは出来るだけ関わらないように彼を避けていた。
そして、あるクラスの当番の日。放課後、日誌を書き終えて、ふと窓の外を見ると、ベランダの手すりに雑巾が掛けたままになってたので、それを取りに行った。そのまま外を見ていたら、野球部が大声を出しながら練習しているのが目に入ってきた。あぁ、この後部活、どうしようかなぁ、と思ったら思わずため息が漏れた。
「「はぁ...」」
え?と思って辺りを見回すと、背後の教室内に、背を向けて窓辺にすがっている人がいた。誰かと思って覗いてみたら...黄瀬が携帯をいじりながらこっちを向いた。
「あぁ、ちゃん。当番ッスか?お疲れーっす。」
そう言って、そのままカバンを持って教室を出て行った。珍しく絡んでこない黄瀬も、何だかちょっと不気味な気もする。しかもちょっと雰囲気暗かった?携帯、ってことは仕事で何かあったのかな。それとも、、、彼女?とか。いや、彼女はいない、てか作らないって聞いた気もする...って、何詮索してんの、わたし。黄瀬なんてどうだっていいじゃん。ウザイのがいなくてホッとするし。そう思いながらも、心の奥底に小さな穴が開きかけていることを何となく無視できないでいた。
次の日。わたしとしたことが、社会の絶対提出しなきゃいけない課題を忘れてきてしまい、放課後残ってせっせせっせとノートに書き込んでいた。しかも、なぜか隣には黄瀬が。仲良く、いや、仲良くなんか絶対ないんだけど、何で並んで課題やんなきゃなんないのー?あんたの席ってもっと前でしょ。訴えたかったけど、もうそんなことを言うのも面倒で、そのまま一緒に課題に没頭していた。
そう。本当に、珍しく、黄瀬が課題に集中していた。なんだ。やれば出来るのに、何でやってこなかったんだろ。ひょっとして、昨日の携帯、とか。何かあったのかな。・・・・・あ、いやいや、彼のことはどうでもいいし。集中集中!
「ちゃん、俺のこと、避けてるっスよね。」
「・・・・・・・・・・」
「そんなに俺のこと、嫌い?」
「嫌い。」
「っハハハ。そんな速攻で否定されると、マジへこむっスわー。俺、ちゃんのこと好きなんだけど。」
「っ!」
言葉にならない言葉を発し、あまりの驚きに黄瀬の方を向いたら、いつもと違ったマジメな顔をしてこっちを見ている。だ、だめーっ。一番聞きたくなかった言葉を耳にしてしまった。てかやっぱ”軽い”。だからヤだったのに。無理だって。わたしにはムリムリーっ。そう思いながら、わたしは頭を抱えて机に突っ伏した。
「あ、ゴメン。そんなに迷惑だなんて思わなくて。・・・・・あー、いいっスわ。もうちゃんに、必要以上に話しかけたりしないから。ごめん。気にしないで。」
そう言って、黄瀬は立ち上がって、カバンを片付け始めた。そして、「んじゃ。」と言って教室を出て行ってしまった。
あぁ、もう課題はやってしまったんだ。ていうか、何一人でしゃべりたいだけしゃべって出て行って。と、そうは思いながらも、わたしはさっき黄瀬に言われた言葉が頭に引っかかっていた。黄瀬に告られてしまった。いや、そんな深い意味はないのかも。でも、もう何もないような気もする。わたしはわたしでこんなだし。そう、今までのいつもの生活に戻るだけだ。そう思っていた。
あれから黄瀬は、本当に何も言ってこなくなった。相変わらず、声がハモったり、同じものを一緒に掴んだり、視線が絡んだりということは、やっぱり何度もあったのだけど、今までのように笑顔を返してくれたり、何か言葉を掛けるようなことは一切なくなった。それはそれで、わたしにとっては好都合、だったのだけれど。どうもしっくりこないのはなぜだろう。黄瀬が近づかなくなって嬉しいはずなのに。心のどこかでそれを認めていない自分がいた。何で?何なんだろう、このモヤモヤした気持ちは。わたしはその原因がどうしても分からずにいた。
ある日、わたしは忘れ物を取りに教室へと駆け込んだ。もうすぐ鍵が締まっちゃうから、とりあえず目的のものだけ取って、と思い、バタバタしてたので、教室にいたある人物に全く気がつかないでいた。そしてそのまま教室を出ようとしたら、背後から声を掛けられた。
「ちゃん。」
この声、そして、この言い方。アイツしかいない。何?なんで?と自問自答しながらも、わたしは思わず立ち止まってそのまま動けずにいた。
「ちゃん、そのままでいいからちょっとだけ聞いてくれる?」
「・・・・・・・・・・」
「俺、やっぱ君のこと諦められなくて。ってちょっと女々しいかもしれないけど、俺、マジなんだ。俺、ちゃんのこと―――――」
「分かった。」
「え?」
「もういいから。黄瀬の気持ち、ちゃんと受け止めるから。」
「ちゃん......」
「あ、でも、勘違いしないでね。わたしはアンタのこと―――――」
好きじゃないから、と言おうと思った瞬間、後ろから黄瀬にギュッと抱きしめられてしまった。ちょ、ちょっとやだ、何やってんの、そう思いながらも何もできずにいた。それよりも、心の中が溶けていくようなこの感覚。何なの?わたし、どうかしちゃったんだろうか...
「ありがとう。」
「・・・・・・・・・・」
「実はちょっとだけ気になってたんだ。ちゃん、俺のことちょっと気にかけてくれてたっしょ?俺、これでも好きな子に対する観察力って自信あるから。なんかちゃん、ビミョーにそわそわしてたっスよね。」
「え?そ、そんな、わたし......」
「俺たち、やっぱ惹かれあうものがあるんっスよ。ほら、生年月日も血液型も一緒だし。俺、運命めいたもの、感じてるんっスけど。」
「・・・・・へ?う、うんめい???」
「ちゃん、俺と付き合ってみないっスか?」
「・・・・・・・・・・」
「俺、もっとちゃんのこと、知りたいんだけど。」
「わ、わたし、めっちゃ我儘だし......」
「おっ。我儘、結構!彼氏って、彼女のワガママ、嬉しいもんっスよ。っちのワガママなら可愛いし。」
「か、かわいいって......」
「ほら。今も、赤くなってるし。」
「や、やめてよ......」
「ねぇ、俺だけに、他の人の知らないっち、見せてくれない?」
fin
by ゆかり 2012/07/13
《つぶやきという名のあとがき》
ど、どうしよう。出来ちゃった。書いちゃいましたよ、初黄瀬夢。
てか、わたしが書くと、こうなります。。。
の、のん子さーん!わたし、のん子さんに謝らなくっちゃ!
全然書けませんでしたっ。すっごい難しかった。。。>号泣
わたし、のん子さま(TOMYCHUN)との会話の中で、
とんでもないことを言ってしまって。。。でも実は、それがきっかけで、
この話、思いついたんですよ。そういう意味では、のん子さんに
とっても感謝してます。のん子さんのお蔭です!ありがとうございますっ。
にしても、黄瀬くんの性格は分かるんだけど、セリフが。。。
あ゛ー、もう書けないかも。。。>撃沈
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
陳謝。
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