「ぅわぁっ!すっごぉい!!!」


空を見上げながら、思わずわたしは携帯のボタンに手を掛けた。







*** 君と...








「はぁ...今日の委員会、めっちゃ長引いちゃったなぁ...」


折角と、新しいケーキ屋さんに行く予定にしてたのに、こんなに遅くなっちゃダメだー、と思いながら、に断りのメールをした。

まだ、マフラーなしでは寒い夕暮れ。わたしは帰路につきながら、ほぉ、っと溜め息を落としつつ、暮れゆく空を見上げた。
すると、目に飛び込んできたのは、思わず、はっ、となってしまうような、目を奪われるもの。
明るい星が一つと、その下に少し小さめの星が一つ。そして、その二つの星の間に、薄い綺麗な月が浮かんでいた。

「ぅわぁ...すっごい綺麗...」

直感的に、これは絶対に、めったにない位置関係なんだ、と思ったと同時に、あるクラスメイトの顔が浮かんだ。これを教えてあげたら、彼ならきっと喜んでくれるに違いない。わたしは鞄の中から携帯を取り出し、ボタンを押そうとした。けれど...まだ彼とは数えるほどしか携帯で話したことがなかったし、実際、番号やメアドを聞いてからここ半年、メールも事務的なことしかしたことがなかった。なのに、こんなに気軽に、しかもこんな用事で携帯を通じて接触を持っても良いものかどうか、ちょっと躊躇した。わたしなんかからそんなことで連絡入ったら、彼はどう思うだろうか...でも。...そう。つい先日、同じクラスの菊丸くんと彼が、オリオン座流星群がどうのとか、月食を見ただのと、話をしているところをたまたま通りかかって耳にした。だから、瞬間的に彼の顔が浮かんだ。うん。やっぱり連絡してみよう。彼ならきっと分かってくれる。確信は無かったけれど、はとりあえずメールをすることにした。


To    : 不二周助 くん
タイトル : です
本文   : 部活、お疲れ様です。
       急にごめんね。
       部活は終わりましたか?
       今、西の空に、星と月が綺麗に並んでて、
       すっごく素敵なんです。
       おそらく珍しい位置だと思うの。
       もし良かったら見てみて下さい。


もちろん、返事は期待していない。不二くんって、紳士的だしとっても優しいのだけど、意外と神経質そうだし、こんなメールしても警戒しちゃうかな。でも、クラスメイトとしての話題提供、ってことで、許してもらおうかな、そう思いながら、綺麗な星たちを眺めながらゆっくり歩いていた。

すると、それから少し歩いたところで、携帯の着信音が鳴った。名前を見るとまさに意外な人物。わたしは緊張してドキドキしながら、携帯のボタンを押した。


「はい。もしもし。」
「あ、さん?メール、ありがとう。」
「あ、うううん、なんか突然ごめんね。」
「そんなことないよ。嬉しいよ。今どこにいるの?もう家に着いちゃった?」
「えっと、まだゆっくり歩きながら帰ってるとこだけど。今、川沿いを歩いてるとこ。」
「そう。分かった。じゃ、また後でね。」


不二くんは、そう言ったかと思ったら、何だか慌ただしい様子ですぐに切ってしまった。あぁ、やっぱり忙しかったのかなぁ、と思いながらも、最後の一言が頭の中でリピートしていた。

『また後でね』

確かに不二くんはそう言った。"また、後で"って、今から、ってことかしら。でも確か、不二くんの家って、うちとは反対の方向だったような...学校からだと遠回りするようになるんじゃ...いや、まさか、そんなことは無いだろう、きっとまた明日、の聞き間違いだったのかも。わたしはそう思いなおすことにして、星を見ながらゆっくり川沿いを家へと向かって歩いていた。

すると、程なくして足音が聞こえてきた。それも走っているような足音。まさか、と思いながら振り向くと、そのまさかの不二くんが近づいてきていた。え?と思いながらわたしは立ち止まって、不二くんが来るのを待った。

「良かった。間に合ったね。」
「不二くん、すごいね。どうしてこんなに早く来れたの?」
「実は、今日は高等部の方へ見学に行ってたんだ。それで、早く終わったから、ちょっと乾の家へ寄ってて、帰ろうと思ったら君からメールが入ってね。びっくりしたけど、ちょうど良かったよ。」
「そっか。乾くんの家って、この近くだったっけ。」
「うん。今、乾にも聞いてきたんだ。一番上の明るい星が金星。そして月。一番下が木星らしいよ。」
「へぇ。さすが乾くん。よく知ってるね。」
「フフフ。僕は褒めてくれないの?」
「え?」
「君と見たくて、頑張って急いできたんだけどな。」


そういうふうに言われてしまうと、返事に困ってしまう。それは不二くんも何となく分かって言ってる風で、クスクスと笑いながら、本当に綺麗だね、なんて空を眺めている。


「来て良かったよ。メールを読んで、どうしても一緒に見たくなったんだ。」
「不二くん...」
「ねぇ、さん、君の名前、呼ばせてもらってもいい?」
「え?えっと、わ、わたしの...」
「うん。ちゃん...」
「は、はい...」
「今度、一緒に、プラネタリウム、見に行ってくれないかな。」
「え。わ、わたしでいいの?」
「もちろん。」
「じゃ、じゃあ、是非。」


良かった、と不二くんは言って、歩こうか、とわたしの手をとった。時折吹く風は、まだ冷たかったけれど、わたしの握られた手も、そしてわたしの心も、とっても温かく感じた。







fin

by ゆかり 2012/04/02







《つぶやきという名のあとがき》

不二夢です。
ふっと思い付いて書く時は、ホント、早いです^^♪
実際、3月26日に、この星空を、わたしが見たんです。
家族と、ぅわぁ、すごいね〜、サンドイッチみたいね、なんて
話しながら見上げてました。
そしたら、夕食後、知人から、"星が並んでるよ"という電話が
かかってきたりして、またみんなで見たりしました。
次の日の朝のTV番組で、その星が何だったのかをたまたま
やってて知った、というわけです。
それを、不二くんと見れたらなー、と思ったら、
こんな感じに仕上がっちゃいました^^

いかがでしたでしょうか。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。
陳謝。