いつも、明るくて朗らかなキミだけど、


どこか、無理してるように見えたから...



"僕がキミの笑顔を護りたい..."







*** keep your smile








さんって、ひょっとして人見知りする?」


初めてまともに話しかける言葉にしては、ちょっとどうかと僕自身も思ったけど、お互いクラスメイトで、全く知らない間柄ではないし、このくらいはさほどおかしくもないだろう、と思い、僕は思っているままの疑問を彼女にぶつけてみた。僕にとってはそのままの意味の率直な質問。というか、いつもさんのことを見ていた僕だから感じていたことではあるけれど。


「あ、不二くん。えと、わ、わたし?えーと、うううん、そんなことないよ。どちらかというと、むしろ逆かな。」
「そうなの?じゃあ、さんって結構、周りに気を遣っちゃう方じゃない?」
「え?そ、そうかなぁ。」


彼女の周りへの気の遣い方は尋常じゃない。って言ってしまうのはちょっと大袈裟かもしれないけれど、たまに、見ている方が疲れてきてしまうほど周りに気を配っているのが分かってしまったりする。でも、決して押し付けがましい感じではなく、さりげなく、とか、周りに気付かれない程度に、とか、そういうパターンが見ていて多い。前の席の子の服に着いている綿ゴミを気付かれないように取ったり、視聴覚室とか、長い机が乱雑になってたりすると、人が通りやすいように、上手に間隔を開けて整えていったりする。重たい書類や道具を持っている子を見るとほとんど必ずと言っていいほど声を掛けて手伝ってあげてるし、でもだからといって、決して出しゃばる感じではなく、逆に控えめで、友人たちの輪に混ざっても、どちらかというと聞き役で、ニコニコしながらタイミング良く相槌を打っている。そう。例えると、"大和撫子"という言葉がぴったりくるような女の子。でも、どことなく、その笑顔にぎこちなさが見受けられるのは、僕の気のせいかなぁ、と思っていた。



そんなある日、何となく今日の彼女は、表情が固い、というか、顔色が悪いような気がして、ずっと様子を窺っていた。2校時目の理科の移動教室の時、廊下で偶然、彼女の後ろを歩いていた僕は、どうしても気になって、友人たちより一歩後ろを歩く彼女に声を掛けた。

さん、今日ちょっと、元気なくない?大丈夫?」
「え?あ、不二くん。うん。大丈夫だよ!元気元気ー!」

と、軽くガッツポーズをしながら、僕の問いに答えていたけれど、その後の表情、そして、授業中の様子を見ていて、やっぱりますます気になって、授業後、よくさんと一緒にいるさんに聞いてみることにした。


「ねぇ、さん、今日のさん、ちょっと顔色が悪くないかな。」
「うん...わたしも実は、ちょっと気になってたの。最近、お家が忙しいみたいなのよね。」
「あぁ、そういえば、さんとこって、兄弟が多いって聞いたことあるけど。」
「そうなの。両親は共働きだし、小さい弟や妹たちが3人いて、その子たちの面倒とか、食事とか洗濯とか、ほとんどがやってるみたいで。」
「そっか。それは大変だね。」
「うん。わたしも、あまり無理しないように、って言ってるんだけど。今日は特に、ちょっと疲れて見えるよね。わたしも様子を見てるから。不二くん、ありがとう。」
「うううん。僕も、見てることしかできないけど。」


じゃね、と彼女は言って、さんのところへと戻っていった。そういう事情を聞くと、ますます気になってしまうけど。何とかしてあげられたらいいけれど、さっきもさんに言ったように、そっと見守ることしかできないから。何も出来ない自分がちょっともどかしい気がしていた。


昼食後、手を洗いに廊下へ出て、手を洗って振り向いたら、ちょうど友人たちと歩いているさんとすれ違った。振り向いた瞬間に、さんと肩が触れたかと思ったら、さんの足元がふらついて、僕の方へと倒れこんできたので、思わず彼女を抱きとめた。「大丈夫?」と声を掛けたけど、立ちくらみのようで、まだ目の前がはっきりしないのか、僕の声掛けにも応答がない。それに、足元もおぼつかない。僕はそのまま、彼女を抱きかかえて、すぐそばにいたクラスメイトに「保健室に連れて行ってくるから」と伝えて歩きだした。


保健の先生は不在だった。僕は彼女を抱きかかえたままベッドへと向かい、彼女をベッドへと下ろした。かなり気分が悪いのか、さんは蹲ったままだったので、上靴だけ脱がせて、そのまま布団を掛けてあげた。保健室の出入り口に『すぐに戻ります』と掲示がしてあったので、僕はベッドの横に腰掛けて、先生を待つことにした。まだ昼休みだし時間はある。僕が彼女を見守っててあげたい。そう思うと温かい気持ちになって、彼女の顔を見つめていた。


戻ってきた保健の先生に経緯を告げ、5校時のチャイムギリギリで僕は教室へと戻った。保健室にいる間、彼女はそのまま寝てしまって起きることはなかった。彼女の寝顔は何となく苦しそうだったけれど、でもこれで、少しでも彼女の疲れが取れればいいと思いながら、午後の授業を受けた。


心配して声を掛けてきたさんたちにも、ゆっくり寝てるみたいだから大丈夫だよ、と伝えて、掃除を終えた放課後、再び僕は保健室を訪れた。


保健室から出てきた他の生徒と入れ替わりに入り、先生に尋ねたら、彼女はまだ寝ているみたいだった。先生の携帯が鳴り、一言二言の会話の後、「ちょっと席を外すけど、君、まだいる?」と聞かれたので、「はい。」と答えると、「じゃ、彼女、お願いね」そう言って先生はバタバタと慌ただしく行ってしまった。僕はさんの様子を見るべく、ベッドへと近づいた。

昼過ぎにここへ連れてきた時よりも少し顔色が良くなっているようだった。彼女の荷物は、さん達が持ってきたのか、ベッドの足もとへ置いてあった。でもまだ少し苦しいのか、時々しかめたような表情をしたりする。このまま彼女の寝顔を見つめていたい、そう思った時、「ん」と声がして、身じろぎしたかと思ったら、彼女が目を覚ました。良く寝られたのか、多少すっきりした顔をして、でも、自分の置かれた状況がつかめないのか、瞳をキョロキョロさせて、天井を見たりカーテンを見たりして、ようやく横に座ってる僕へと視線が辿り着いた。


「・・・不二くん。」
さん。よく寝られたみたいだね。」
「わたし、ずっと寝てたのかな」
「そうみたいだよ。ここに君の荷物が置いてあるのにも気が付かなかったでしょ。」
「え?あ、ホントだ。あ、あの、不二くんが?」
「うううん。さんたちが持って来てくれたみたいだよ。」
「あぁ.........あ、えっと、不二くん、今、何時?」
「んーと、5時半くらいかな。」
「え?ホント?ど、どうしよう。わたし、帰らなきゃ。」
「あ。だめだよ、慌てちゃ。またふらついちゃうよ。」


そう言った矢先、案の定、さんは急に起き上がろうとしてふらついて、うっ、と言いながら頭を抱えて、そのまま、またバタリとベッドへ倒れてしまった。


「ほら。急に動いちゃダメだよ。ずっと寝てたんだから。起き上がるなら、ゆっくり起きなきゃ。」

僕はそう言って、起き上がろうとする彼女の背中を支えてあげた。

「だ、だって。弟たちを迎えに行かなきゃ。」
「あぁ、それなら大丈夫。親御さんと連絡が取れたから、さんのこと伝えてあるよ。心配しないで。」


さんは、ありがとう、と言って、はぁ、と息をつきながら、頭を抱えるようにして俯いてしまった。彼女がとても小さく見えた。どれだけたくさんのことを一人で、この小さな体で、抱え込んでいるんだろう。その負担を少しでも軽くしてあげられれば...僕はそんなことを考えながら、無意識に彼女の頭をゆっくり撫ででいた。


「とは言っても、そろそろ下校時間だし、一緒に帰ろうか。」

荷物は僕が持つから、といって、彼女をゆっくりベッドから下ろし、ちょっと待ってて、と彼女に告げて、僕は保健室の先生に帰ることを伝えに行った。




帰り道。大丈夫?、と時々声を掛けながら、僕はさんの歩調に合わせてゆっくり一緒に歩いていた。さっきのベッドの上での彼女の様子が頭から離れなかった。そういえば、何かしらいつも緊張しているようにも見える。気を遣いすぎてるのもあるだろうけれども、まだ何か他に要因があるような気がしていた。


さん、気の休める場とか、ある?」
「え?あ、うん。大丈夫だよ。友だちはとっても良くしてくれるし、相談にも乗ってくれて頼りになるし。」
「君が、どこか無理してるように見えるのは、僕だけなのかな」
「不二くん、ありがとう。ごめんね。何だかすっごく心配かけさせちゃったね。いろいろありがとう。」
「いや、そんなことないよ。僕は自分が出来ることしかしてないし。」
「うううん、ホント、嬉しかったの。ありがとう。」



いつものさんに戻ったようで、僕も嬉しく思ったけれど、何となくその彼女の横顔が寂しそうに見えてしまい、どことなく放っておけなくて、彼女を支えてあげたい気持ちが強く湧き上がってきていた。


「ねぇ、ちょっと提案なんだけど、例えば、僕が君の心のオアシスになってあげたい、って思うんだけど、だめかな。」
「え?あ、う、嬉しい。ありがとう、不二くん.........でも、だめだよ...不二くん。そういうこと言っちゃ...」
「え?どうして?」
「だって......勘違いしちゃうよ...」
「勘違い?」
「うん......だって...期待してしまう...」
「嬉しいな。期待してくれていいよ。いや、むしろ期待してほしい。僕、君のことが好きなんだ。」
「だ、だめだよ、不二くん。わたしじゃ。迷惑かけちゃう...」
「いいよ。君になら迷惑掛けられてもいい。ていうか、全然、迷惑だなんて思わないよ。それよりももっと、僕に気持ちを預けてほしい。気を遣わなくていいから。って言っても、君のことだから、それはしばらく無理かもしれないけどね。」
「ふ、不二くん......」



「僕に、君の笑顔を、護らせてくれないかな。」







fin

by ゆかり 2012/04/03







《つぶやきという名のあとがき》

書ける時は、書けちゃうもので。。。
続けて2作upです^^♪
久々に、不二くんsideで書いてみました。

いかがでしたでしょうか。。。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。
陳謝。