*** 100%の恋








・・・・・ってのをしてみたい―――――――っ!



なんて、純情乙女心全開で、雑誌の占いページに釘付けのわたし。あまりにも集中し過ぎてて、近付いてくる人物に全く気が付かなかった。


「へぇ。って、占いに興味あるんだ。」


耳の反応は確かだ。人の声は結構聴き分ける自信がある、って、冷静に分析している場合じゃなくて、まさにその張本人が現れたのだから、気が動転するのを抑えるのに必死だ。

時間にして、1.5秒。一瞬わたしは固まって反応が遅れてしまい、しかも動揺が見てとれるように露わになってしまった。

「へ?あ、あー不二。そ、そりゃね。わたしだって一(いち)乙女ですから。」

と誤魔化したつもりだけど、バレてませんように、とここは神を信じて祈るしかなかった。

「ふうん。」
「え?い、いいじゃない。別に不二には関係ないし。」


こういうときって、どうして思ってることと真反対のことを言ってしまうのか。しかも相手があの不二だ。しまった、と思ったが遅かった。


「へ―。、僕に向かってそういう言い方するんだ。」


そして、不敵な笑み。


あ、と思った瞬間、


「英二ー、って、僕と英二のこと、二股かけるらしいよー」


ぅわっ。大声で何てことを言うのよ、と思ったけど、時既に遅し。ていうか、何、それ???


「ちょ、ちょっと不二!わたし、そんなこと言ってないじゃない!」
「え?違うの?」


クスクス笑いながら、余裕綽々な態度の不二。してやられた、って感じだろうか。これがなければ、もっと素敵なのになー、などと考えてたら、なになにー、とまたそれはそれは楽しげに興味丸出しの菊丸がすっ飛んできた。


ちゃーん、なぁにやってんのー?」
「恋占いしてるらしいんだ。」
「いいじゃん、別に。やるのはタダでしょ?わたしだって恋の一つや二つ、してみたいもん。」
「あぁ、ちゃん、残念だけど、それムリ。」

そう言いながら、菊丸は手をひらひらと横に振って、そんなのナイナイ、ってジェスチャーする。

「えー?何でよー?」
ちゃん、俺らといること自体、既に恋愛から遠ざかってるし。」
「え?何で?何それ」
「だって俺たち三人、友情協定結んだじゃん?」

菊丸曰く、以前菊丸、不二、わたしの三人で、ほとんど軽いノリだったのだけど、"親友"として"男同士の約束"を交わしたのだから、俺たちは"仲間・同志"なのだ、と、頑なに譲らない。

まぁ、こういう時の菊丸は、意外と頑固だから、波風立てないようにするには、わたしが折れて、、、って、これじゃいつまで経っても恋愛なんか出来ないじゃない。ま、でも、考えてみれば、「友情協定」ということはそういう意味で、お互いに恋愛感情なしに付き合いましょう、ってことだから、言外に「俺たちを好きになるな」って意味も含まれてたのだろうか、と、今更ながら気落ちする。わたしはただ単に、「男女の分け隔てなく」、という意味にしか受け取ってなかったのだけど、それも意味を返せば、そういうことになるのかもしれない。またわたしは、一人で、自分の考えの浅はかさに気付かされる羽目になった。

「ん。分かった。わたし今日から、きっぱり"男"として生きるわよ。あ、もちろん、気持ちだけだけどね。」
「おっ、さっすがちゃん。カックいいー。」
「いや、そこ、そんなに褒められても......って、ま、いっか。」
「でも、恋愛は自由なんだから、あまり自分を押さえつけなくてもいいんじゃないかな。」
「あ゛ーっ、不二ぃ、大人な発言して、いちぬけすんのー?ずりぃぞっ。」
「んー、なんていうか、だって女の子なんだし、そういうことは自由にさせてあげてもいいんじゃないか、って思ってさ。それで僕たちの関係が崩れるとは思えないし。」
「さっすが不二!乙女心分かってるー!」

と、ニコニコしたわたしの斜め前では、口を尖がらせた菊丸がそっぽを向いている。いいじゃない、英二、と言いながら、不二が菊丸の肩を叩く。菊丸は、というと、気が変わったのか(そこが菊丸のいいところだ)、今度はだんだん瞳を輝かせて、興味津々でわたしの方を見てきた(前言撤回?!)。

「よぉし。じゃあ、ちゃんを応援するか!で、なになに?誰とやってたのー?」
「え?や、やだなー。そこで話、戻っちゃうの?」
「そうだね。僕も気になるなー」
「わ、不二まで。あはは。遊びだよ、遊び。テキトーにやってただけだから。誰と合うのかなーって。」
「へぇ。ねぇねぇ、それって、このクラス?それとも違うクラスのヤツー?」
「いや、だから、いろいろだってばー。もういいじゃない。勘弁してよー。」

とか何とかわたしが言ってる間に、不二はわたしの手から雑誌を取って、ページを眺め始めた。

「・・・・・へぇ。面白いね、これ。」
「でしょでしょ?って、不二、これ見て分かるの?」
「ねぇ、がやってたのって、どれ?」
「え?あ、これだけど?」

と、雑誌のページを指差してみた。ふうん、と不二は言って、興味深げに雑誌に食い入るように見入っている。菊丸は、んじゃ今度、教えろよーっ、と言いながら、ひらひらと手を振ってどこかへ行ってしまった。

「・・・、これ、何パーセントだった?」
「え?あ、えと、54だったかな。えへへ、しょぼいでしょ?」
「僕は、46。これって当たるのかな?」
「どうだろうね。って、不二もやったのー?」
「僕も、テキトーだよ。」

と言いながら、不二は気持ちの読みとれない笑みを浮かべている。今度はわたしの方が気になる番が回ってきた。誰とやったんだろ。ていうか、こういうこと考えてる時点で、協定とやらは無意味なんじゃないかしら...

じゃ、またね、と言って、わたしの机の上に雑誌をたたんで置き、不二は自分の席へと戻って行った。その後の五校時、わたしは不二が占いをした相手が気になって仕方がなかった。




それから何日かして、またわたしは雑誌を広げていた。今度は、教室じゃ周りがうるさいから、屋上へ持って来ていた。はぁ、ホント、不二の言うように、この占いって当たってるんだろうか。そう思いながら、この号は占いの特集だったので、他のもいろいろ試してみていた。

「どう?いい結果、出た?」

また不意打ちの声。一気に上がってしまった体温に、自分が驚いてしまうほどだ。もちろん声の主は不二。また雑誌に夢中になってて、気配に全く気付かなかった。

「び、びっくりするじゃない。き、菊丸は一緒じゃないの?」
「うん。大石に呼ばれて、二組にいるよ。」
「あぁ、そ、そうなんだ。」


なんか、菊丸がいないと、ミョーに緊張してしまう。やっぱり三人でごちゃごちゃ言ってる方が落ち着くような気がする。やっぱり協定は有効だ。でないとわたしが変になっちゃいそうな気がした。

「こういうのって、100パーセントって、あるのかな。」
「あ、それ。わたしも思ってた。」
「そもそも、100パーセントって、実際どんなんだろうね。」
「そうなんだよね。憧れちゃうけど、そこまでぴったりくる相手なんて、あり得ないなーって思う。でも、100パーセントになったら、ステキだろうなー。」
「フフフ。も乙女だね。」

そりゃね、と言いながら、わたしは膝を抱えて、その膝に顎をのせて、空を眺めた。とってもいい天気だった。風もそよそよと頬を撫でて、見上げれば透き通るような青色が広がっていた。思わず、ふぅ、っと溜め息が漏れた。


、恋してるの?」
「え?あはは、ど、どうかな。」
「僕で良ければ相談に乗るけど?」
「ふふっ。ありがと。」

わたしはそれだけ言って、今度は足を前にのばして、両手を後ろについて、また空を眺めた。すると、不二もわたしと同じように同じような姿勢になって同じように空を眺めた。

「きれいな空だね。」
「うん。」
「同じ空気を一緒に感じれるって、いいよね。」
「え?あ、う、うん。そうだね。」
「ねぇ、この前、が54で、僕が46だったよね。」
「あ、そ、そうだったかな。」
「二人、足したら、100になるよ。」
「え?あ、ホントだ。」

「僕、協定、破っちゃうかも。」

え?、と、わたしは、起き上がろうとした。すると、わたしの左に座っている不二にわたしの左手を抑えられた。思わず不二の方を振り返ったら、不二がまっすぐな眼でわたしを見ている。

「ねぇ、、僕と100パーセントにしてみない?」

英二には、協定、変更してもらおう、と不二は言いながら、わたしの手を握り、立ち上がって、わたしの手を引っ張りながらわたしを立たせてくれた。手は繋がれたまま、不二が下に置かれた雑誌を取ってくれた。わたしが片方の手でスカートを直すのを待って、わたしに雑誌を渡してくれた。





(良かったにゃ。ちゃん。)
(え?き、菊丸、な、何のこと???)
(もう、不二が、あんまり嬉しそうに帰ってくるからさ。)
(な、何が?)
(フンとにー。二人とも、バレバレだしー。キューピッド菊丸、って呼んでほしいよにゃ。)
(うっ...菊丸、ネームセンスないし...)
(よ、余計なお世話っ。)
(ふふふ。冗談よっ。ありがと。)





fin

by ゆかり 2012/03/16







《つぶやきという名のあとがき》

サイト公開後、初の不二夢です。
不二くんが書きたくて、いろいろ悩んで、やっと書きあげました。
とはいえ、題材は保存していたので、ちょっと着色した、という感じではありますが^^ゞ

にしても。。。
初めての「36夢」。まだまだですな。
36大好きなんだけど。。。もっともっと勉強いたします<(_ _)>

最後までお読みいただき、ありがとうございました。
陳謝。